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今宵空から星が降る



 パシャパシャとシャッターを切る音が、引っ切りなしに続いている。愛用のカメラを覗き込んだ春は、星の瞬く夜空を次々と切り取っていった。そんな彼の様子を横目に見つつ、楽しそうだな、とちぇるは思う。自分の為に見せつ表情とは少し違って妬きそうになるが、小さな差に気付けるのはきっと、自分だけ。そう、ちぇるが自惚れる程に春はちぇるを愛しているし、ちぇるだって負けないくらいに春を愛している。
 写真という趣味に打ち込む春の無邪気で楽しそうな姿が、ちぇるは好きだ。幸せそうな彼を見ていると、自然と自分までもが幸せだと思えるのだ。同じように、歌っているちぇるの直向きな姿が春は好きだ。甘くて優しいあの声に名前を呼ばれ、愛を囁かれたらほら、胸の奥が淡く疼く。


「ちぇるー」
「なに春く、」
「ふふん、ちぇるの写真ゲットー!」
「…ええけど。どうせ後で消したるし。…所で流星群まだ?」
「んー、そろそろだと思うんだけど…というか今の写真消すの?折角撮ったのに?」
「とーぜん」


 ちぇるの一言に春は青ざめる。写真は消させない!と言うかのようにカメラを抱き締めた春を見て、ちぇるは心の中だけでそっとわらった。ずっとずっと、こんな穏やかな時間が続けば良いのに。だけれども、幾ら願えど、幸せにだって限りはある。いつかは──。そんな事を考え始めてしまうと中々どうして、暗い方へ暗い方へと思考が追いやられてしまうのである。それが何とも悔しくて切なくて、ちぇるは瞼を伏せた。嗚呼、悪い癖だ。


 声がした。何かにはしゃぐ、子供のように高くて澄んだ声が。(やっぱアラサーの声じゃないよな、コレ。)ちぇるは確信を持って隣へと視線をやる。そこでは、つい先程までちぇるを牽制しようとカメラを抱いていた春が、夜空を仰いで歓声を上げていた。ほら、やっぱり。春は流れる星々に数秒見惚れ、この瞬間を逃すまいと慌ててカメラを構えるのだった。
 釣られてちぇるの視線も空へ。かの有名な童謡の通りに夜空ではきらきらと星が瞬いている。その幻想的なキャンパスに走る白い閃光。ほう、と感嘆の声を上げたちぇるは青々とした芝生の上にごろんと寝転がった。いつまでも首を上げているのは疲れる。瞬きをすれば途端に見逃してしまう程のスピードで流れてゆく流星は、ころころと表情を変える春のように、ちぇるの心を捉えて離さない。
 ちぇるはそっと、瞳を閉じた。次に目を開けた時、一番最初に視界に捉えた星に願い事をしよう。そう、密やかに心に決めて。流れ切る間に願い事を三回唱えられなくたって構わない。今はただ、この不安をまじない事に頼ってでも振り払ってしまいたいのだ。春がシャッターを切る音は未だ止まない。流星群に釘付けになっている春の視線は、隣へと向かないのだろうか。
 時間にしてほんの数秒。ちぇるはゆっくり目を開いた。冷たさの中に温もりを孕んだ春宵の風が草木を揺らす。その時ちぇるの視界に飛び込んで来たのは流星でも夜空でもなく、アップで映し出された春のきょとんとした表情だった。「寝ちゃったのかと思った」。春はそう呟いて、刹那、ふわりと笑顔を見せる。ちぇるは状況を飲み込めないまま、何を思ったのか間近にある春の唇に口付けた。優しさと愛おしみで満たされたキス。無数の星達だけがふたりを見下ろしていた。








あとがき
桜吹雪に提出
ちぇるさんと春さんの絡みってとっても可愛らしいですよね。って事で初ちぇる春。普段書こうと思いつつも執筆が中々進まず完成させられないままでしたので、良い機会だとちぇる春をチョイスしてツイドル企画に参加させて頂きました。後半の中途半端感が否めない。企画者のやすさま、素敵な企画ありがとうございました。



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