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月を砕いて散りばめたら星



 人間の命が星なら、月は何の命なのかしら。神様?ええ分かっているわ、あなたはそんなもの居ないって言うわよね。でもね、馬鹿にしないで聞いて。わたし、死んだら星よりも月になる方が良いって思うの。


 彼女の戯言に耳を傾けたのが何度目か、俺はもう覚えてなどいなかった。大体彼女の戯言はいつも唐突過ぎるから、それが戯言なのかも真面目なのかも、それすらも真意が読めないのである。
 彼女はひとしきり語った後、静かに息を吐き出した。疲れた、とでも言うかのように緩やかに瞳を閉じ、そうしてから再度開く。その度に長い睫毛が揺れ、恒星の灯りを纏って煌めいた。それは彼女を更に幻想的に装い、美しさを際立てる。普通にメイクや洋服で着飾るよりも、彼女に良く似合う化粧だと思った。


「お前の好きな七夕の伝説は、月じゃなくて星だぞ」
「…そういえばそうね。彦星さまと織姫さまは、今年こそ会えるのかしら。去年は曇っていたから可哀想だったわ」
「そうだな。年に一度の逢瀬なんだ、今年は大丈夫だろう」


 黒いキャンパスに描かれた半月よりも少しばかり細い月に手を伸ばした彼女は、遠近法で月を掴んでいる気分なのだろうか。掌を開いて閉じてを繰り返し、まるでそこにある事を確かめるかのように強く拳を握る。しかしそこに月がある訳もなく、彼女は虚無な掌を下ろした。


 「月だって星だろう、衛星なんだから。あの小さな星々よりも特別に見えるのは、月が地球に近いからじゃないのか。もしかしたら本当の大きさは、小さい星よりも月の方が小さいかも知れない。どっちにしろお前は、俺にとって織姫星のような存在なんだ。年に一度しか会えないのは御免だがな」


 そう言ってから少し気障な台詞だったか、と後悔する。しかし彼女は大して気にも留めず、嬉しそうに双眸を細めた。きらきらと煌めく何かが眩しかった。


「じゃあ、あなたはわたしの彦星さまね。嫌よ、離れちゃ」








あとがき
中途半端ですが見逃してくださいまし…!



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