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誰かを愛してみたかったうそつき



 あの時俺が彼女を助けたのは本当に偶然だった。意地悪な向かい風に煽られて転びそうになっていたのを、ただ本能的に助けなくちゃと思っただけなのだ。だから他意なんてなくて、ほんの、厚意。好意じゃない。彼女がそれをどう捉えたのかは知らないが、あの日以降鬱陶しいくらいに付きまとって来るのだ。
 ああ、面倒だな。俺は心中で悪態を吐きベッドへ寝転んだ。マットレスへ身体が沈み込んで、くしゃり、シーツに皺が寄る。それは今にも泣き出しそうなくらい、歪な模様を描いていた。


「あ、メール。……面倒臭いなあ」


 彼女は俺を優しいと言って笑うが、俺が思うにきっと、そんな事はこれっぽっちだってないのだと思う。大体彼女は俺の何を知っているというのだろうか。俺自身、俺の本質を理解していないというのに。
 俺は先程送られて来た彼女からのメールを開き、長く綴られた文面を面倒だとは思いつつも読み進める。内容はいつもと変わらず『愛してる』だとか『デートしよう』だとか言った物で、正直重いなと思った。大人になりきれない自分たちには、重過ぎる。責任だって背負えない。


 最初は、ほんの遊びのつもりだった。何となく感じていた妙な寂しさを埋めたくて、あの出来事の後告白して来た彼女に手を出しただけ。しかし彼女はそれに気付かず、あまつさえほぼ毎日長ったらしいメールを送って来ている。全く、飽きないのだろうか。なんて、彼女の好意に冷淡な考えをぶつけてみた。否、本当は彼女も気付いていたのかも知れない。それでも手を伸ばし続けていれば、いつかは握ってくれるのだと、恋に恋する乙女は儚い夢を抱くのかも知れない。どうしようもなく愚行だ。
 俺が女の子に本気になる事は、恐らくこの先一生ないんだろう。酷い奴だ、と人々は後ろ指を指す。ねえ、だってさ、自分を愛する事さえ出来ない人間が、どうして他人を愛せるのかな。
 俺はきっと、誰の事も愛せないままに朽ちてゆくのだろう。それは誰にも気付かれないという事も意味する。ひっそりと、まるで暗い暗い山奥で息絶えてしまうようにいつの日か俺は、消える。








あとがき
誰も愛せない瑞希くんを書きたくて。


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