flower | ナノ



光ひとつぶ闇いちまい



 それは夕焼けが綺麗な日の事だった。差し込む西日が教室どころか街中を染め上げていて、とても神秘的な光景を作り出している。けれどもうじき闇に飲まれてしまうそれは儚く、まるで彼女のようだとぼくは思った。儚いからこそそれらは美しく煌めき、人の命も同じ物だと昔誰かが言っていた気がする。
 彼女は窓の外を眺めながら、静かに呼吸をしていた。後ろからでは表情は良く分からなかったけれど、ぼくが思うに彼女は泣きたかったのだと思う。でもぼくが居るから、泣かないし、泣けない。本当はぼくがどこかへ行ってしまえば良いのだろうけれど、弱虫なぼくにはそんな優しい事、出来ないから。


「ねえ、海春くん。…泣いても、良いかな」
「えっ、と…」
「嘘。ごめんね、困らせて。…冗談だか、ら……っ」
「!、…泣いても、良い、よ」


 ぼくはつくづく弱いんだなあ、と密やかに思った。静かに涙を落とす彼女に手を差し伸べられなかったし、放課後の教室でひとり鬱ぎ込む彼女を慰めも出来なかった。彼女が誰かを求めている時に、助けを欲している時に、ぼくは彼女を救えない。守護霊の如く傍に居て、ただ見ているだけ。それきりの中身のない関係になってしまうのが、とにかく怖かったからなんだと思う。


 それはいつかのように、夕焼けが綺麗な日だった。彼女はまた、泣いていた。今度はひとりなんかじゃなくて、光輝くんの腕の中で泣いていた。ああ、そういえば光輝くんは、彼女の事が好きだとか何とか言っていたかも知れない。そっか、彼女も彼の事が好きだったんだね。
 ぼくは「おめでとう」と心中で小さく呟いて、忘れ物もそのままにあの日と同じ橙色に染め上げられた廊下を引き返した。微かに聞こえる彼女の啜り泣く声と、最大限殺したぼくの足音が、そっとぼくの耳へと届いていた。








あとがき
青春みたいな。タイトルは反転コンタクトさまより。



back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -