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焼け焦げた毒蛾の片翼



フォロワーさん男体化(他サイトさまへ飛びます)


※男娼パロ/卑猥


 座敷の隅でゆらりと揺れる灯りが生み出す妖艶な空間は、快楽に支配されていた。掠れたような吐息や潤った嬌声が聴覚をおかす。丑三つ時の夜空には、赤々しい不気味な月が浮かんでいた。座敷の真ん中でまぐわうふたりは、一体どんな夢を相手に見ているのだろうか。
 自分を抱く桐緒の熱っぽい視線に、唯織は不覚にも胸を高鳴らせた。それは皮肉なことにも彼自身の喘ぎで掻き消されたようで、桐緒は変わらずに唯織の中で動く。しかもその刺激はどの客よりも愛に溢れていて、甘く痺れさせるような衝撃を引き連れてくるものだから、唯織は堪ったものじゃない。客の欲望のままに抱かれ苦痛を知り尽くした唯織は、桐緒の労るような優しい手付きにちっとも慣れやしないのだ。
 時折降ってくる桐緒のくちびるにも、唯織は不愉快さと不可解さを感じていた。男娼にくちづけをしようなどという酔狂な人物など、きっと桐緒くらいなものだろう。彼は明らかに唯織を求めている。そうでなければわざわざ大金をはたいてこんな場所へ来るなんてことはないし、所詮は品物でしかない遊君に慈しみを向ける必要もないのだから。桐緒は哀れにも、男娼という立場の唯織を愛してしまったのだ。

「あ、あ……んン、もっと……!」
「っは、唯織、さん」
「ひっ! あッ……はあ、ん……ッ」

 唯織の、演技なのか本気なのか分からない艶めかしい嬌声が更に甘いものへと変わっていって、絶頂が近いことが窺えた。きゅう、と自身が締め付けられるのを感じた桐緒は、次第に律動を速めていく。桐緒は堪らずに熱い息を吐き出した。もう既に彼の表情に余裕は見えず、接吻も肌への愛撫もないままにひたすら終着点へ導こうと奮闘している。唯織もまた脳内で閃光がちらつくような、快楽の本流の予兆を感じていた。
 桐緒は白く靄が掛かっていく思考の狭間で、唯織の眦に施された紅色が融けていく様をじっと見つめていた。それすら淫らで、彼の情欲を掻き立てる。いつかその濃い紅のように、自分の下で鳴く男が似非化粧を拭ってくれることを切に願って。
 唯織の一際甘ったるい声と収縮するナカに、彼が絶頂を迎えたことを知った。それに釣られるように桐緒も果てたが、白濁を放出する直前に唯織の中から猛る自身を引き抜いた。的外れに放たれる欲望。唯織は肩で息をしながら、どうせ自分は性奴同然なのだから躊躇わずとも中へ出してしまえば良いのに、と桐緒の一貫した優しさにもどかしさを覚えた。

「下手糞。腰痛ェ」
「あんなによがって喘いでたのに」
「仕事だからに決まってンだろ馬鹿か」

 果てた後、慣れたように呼吸を整えて手早く着物を羽織った唯織は、掠れた声で暴言を吐き出した。情事中とは打って変わった唯織の粗暴な態度に、桐緒はもうすっかり順応してしまっている。単調な模様の煙管に口をつけて、美味しそうに紫煙を燻らせる唯織。立ち上った煙がぷかぷかと天井の辺りに滞っている。その煙に阿片が含まれていることを知ったのは、桐緒が初めて彼を抱いた日だった。
 傾き者よろしく一部が濃い桃色に染まった桐緒の髪に視線をやりつつ、自分はまだ絆されてなどいないと言い聞かせる唯織。男娼が一顧客でしかない人間に肩入れをして良いはずがない。ましてや公私混合など言語道断である。自分のような汚れた者は、涸れ尽きてしまうまで春を売り続けていれば良いのだ、というのが彼の持論であった。決して桐緒の想いを心地良いなどと感じてはならないのだ。

「唯織さんってさあ、一度も俺の名前呼んでくれたことねえよな」
「あァ? なに、呼んで欲しい?」
「そりゃあもちろん」
「ハッ、呼ぶわけねェだろ」

 今夜の勘定をしながら些細な疑問を口にした桐緒は、唯織の至極当然の返答に苦笑した。どれだけ契っても所詮は仮初めだということは承知の上で彼の元へ通う桐緒だが、ときには切なくなってしまうものだ。蠱惑的な唯織の姿に溺れている。愛してしまっている。笑える話ではあるが桐緒は本気なのだ。あれだけ手厚く抱かれて気付かない彼ではないだろうから、そのまま懐柔されてしまえば万々歳だと桐緒は思った。
 どこからか聞こえてくる半鐘の音。少し焦りを見せる桐緒とは裏腹に、皮肉屋な笑みを浮かべて格子窓の外を眺める唯織は、ここにもその内火の手が回ってきてはくれないだろうかとぼんやり考える。
 ――そのまま全部燃え尽きちまえば良いさ。感情も欲望も何もかも、灰として残ることもないくらいになァ。
 紅蓮に染められてしまえば、きっと彼は安心して眠ることが出来るのだ。ただし桐緒の温度にも同じくらい安堵しているのだとまだ気付けていないことは、唯織にとって大した誤算だっただろう。桐緒が纏う微かな柑橘香は残り香となって、唯織の元へ虚無感を連れてくるのだから。








あとがき
BGM:花魁譚/己.龍
阿片漬け|行為中と行為後とで態度が豹変|仕事に私情を挟まない|身請けに応じない
というのが男娼唯織さん(中の人談)。


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