月の隣で眠りに就くことを望んだ おとこのこ/人間×竜/雰囲気だけ卑猥 黄金の瞳がまるで満月みたいに、煌々と輝きを放った。人間が持ち得ない形をした瞳孔が、無意識下でスッと細められる。不気味、だなんて無粋だ。黒い部分の少ないその瞳は、どうしたって俺のそれとは異なっていて美しく見える。だがしかし、どうやら彼は、自分の瞳を嫌っているようだった。 俺は知っている。竜は確かに誇り高い生き物だが、こうして卑下する事もあるのだと。人間のように豊かな感情を持っているし、誇り高いからと言って決して高慢な生き物でも無い。彼らだって当然、嬉しければ喜ぶし、憤りも感じるし、嘆いたり妬んだりだってする。そんな彼に、俺は心を奪われたのだ。彼の愛おしい感受性と、世を絶する程の美しい見目と、脆く儚い生き様に。 「お前さ、今幸せか?」 「どうして?」 「だってさ、竜って、その」 「絶滅しそうじゃないか、って? ……同胞が少ないのは寂しいけど、でも不幸ではないかな。だってほら、きみが居るし」 ね?、と綺麗に笑んだ彼に、血液がどくりと流れた。さらりと流れる髪は柔らかく、少しだけ長めなそれが青いラインを形成する。濃淡のある青は、元の竜の姿に戻れば更にビロードのような艶やかさを見せるのだろう。 俺は彼の肩にやんわりと触れ、お世辞にも柔らかいとは言えないベッドに押し倒した。彼はおっとりしているように見えて、その実鋭い。俺がこういう行動に出る事もきっと悟っていただろうし、何か言った所で俺が引かないという事も分かっている筈だ。彼は少しだけ驚いたように柳眉を動かしたが、すぐに瞳を細め「良いよ」とでも言いたげに口元を緩ませた。 それから俺達は、愛し合った。髪を撫で、唇を食み、柔肌を啄む。優しく丁寧に、そっと身体を重ねた。必死に押さえた手の平の隙間から、彼の快感に濡れた声が漏れる。果てる時はふたり一緒だと言って、艶やかに笑んだ。なあ、お前は今、本当に幸せか?ああ、俺はこんなにも、幸せを感じてるよ。 情事後独特の気怠さに苛まれながら、俺は快楽の余韻に浸っていた。余程疲れただろう彼の瞼は、もうすぐキスを交わしそうだ。疲れただろ、眠れよ。瞼がキスをしてしまう前に、彼の髪へ俺からのキスを贈る。彼は満足した様に小さく頷き、長い睫を揺らしてその月みたいな瞳を覆った。 おやすみ。 あとがき 人外さんとの恋物語がすきみたいです。 back |