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心理真贋



 きみの心は、本物かい?

 ぎらり。レンズの奥で反射する瞳が、酷く真剣味を帯びているのが印象的だった。
 なに、何なの。何でそんなに真剣なの。だって本当の自分を曝け出したって、見てくれる人は誰も居ないじゃない。
 思いっ切り睨み付けて、彼に対する反感を露わにするわたし。そんなわたしを見ても尚、彼の飄々とした態度は変わらず終いだった。
 またそうやって、強がってる。きみはいつもそうだ。他人を頼る事を知らない。自分以外の人間は皆敵だと思ってる。信用しない。……本当、悲しい人間だよね。
 彼は諭すかのように情けを掛けるかのように嘲笑うかのように、口の端を歪める。その仕草や纏う雰囲気に、わたしはいつしか呑み込まれそうになっていた。

「わたしの事、なんにも知らないあなたが、とやかく言える事じゃないでしょう」
「知ってるさ、いつも見てたんだから」
「……なに、それ。あなたにはストーキング紛いの趣味でもあるの?」
「きみだからだよ」
「なあに、あなたってわたしの事、好きなの?」
「ああ。じゃなきゃわざわざ、会いに来ない」

 わたしは驚きを通り越し、最早呆れていた。余りにも素直に告白した事は勿論。わたしを好きだと言っておきながら、“可哀想”だと言う彼を。訳が、分からない。けれど彼の微笑みは、どんな角度から見たって読み取る事は出来なかった。
 濃いオレンジ色に染め上げられた部屋は、時間の流れを顕著に表す。陽光の眩しい日中から橙が目に滲みる夕方へ、漆黒が世界を塗り潰す夜へと移り変わる瞬間が、儚さや神秘さを帯びてありありと目に映るのだ。もっともその空間で長らく過ごして来たわたしには、美しいと感ずる心がそろそろ欠落しそうなのだが。
 しかし彼は違う。わたしのように、ここにずっと居る訳じゃない。ただ時間を見つけてはここへ来て、わたしと大した言葉を交わすでもなく息をし続けているだけ。景色を眺めているだけ。しかしその横顔はわたしとは相違して、本心からこの色彩を美しいと感じているようだった。そう。まるでわたしがその感情を持たない事自体が、本物の心から懸け離れていると言うかのように。

 そんな彼は、あと何ヶ月もないわたしの寿命を、知らない。








あとがき
ごちゃごちゃ。


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