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それは恋の真似事



 そこには確かに、愛が息づいていた。少女が彼を想う気持ちも、少年が彼女を想う気持ちも、それらは同様に愛だった。しかし彼らは存外早く、自分達を惹き付けているそれが普通の愛ではない事を悟った。否、愛ではあった。ただ、恋ではなかっただけなのだ。
 彼女は、まあるい瞳を覆うその長い睫を震わせた。彼女の膝に頭を預けて安らぐ彼を、優しく慈しむように。その時彼は、彼女の目元に星が散るのを見た。彼女がそっと瞬く度に、カラフルな星が暗闇を飾る。彼女の美貌にそんな錯覚を見た彼は、心地良い微睡みから抜け出すように必死に瞼を持ち上げるのだ。

「好き」
「わたしも、好きよ」
「僕ら、ずっと一緒だよね」
「ええ、そうよ。ずっとずっと、一緒よ」

 今よりも更に幼い頃の彼らは、恋とは何なのかを知らなかった。特別な感情を持つ事、即ち恋だと思っていた彼らは重要な事実に気付けない。説明しようにも恋と愛の違いはとても曖昧で、周囲の人間達は答えを見付けられず終い。電波が飛ぶような鋭い感覚に見舞われるのが恋だ、などといった些か証明し難い根拠が役に立たない事は分かりきっていたからだ。
 十年程が過ぎ、青少年と呼ばれる年齢になった彼らは、恋にも愛にも好きという想いが伴っている事を知った。心の奥底で燻る甘い熱が喉を焦がす。彼らは互いの事を、苦しいくらいに愛していた。
 しかし彼らは、哀れにも気付いてしまった。大人達のふたりを忌む目線に。気付きさえしなければ、何も知らないまま温い幸せに浸り生きてゆけた筈の関係に。気付いてしまったのだ。だから彼らは、また儚い愛と恋心を見失う。嗚呼、なくしたくなんて、なかったのに。
 全ての元凶は、彼らが許されない相手に恋をした事だった。家族を慕う気持ちが、いつの間にか男女間の愛情にすり替わっていたのだ。あの夜、彼女の瞳の中に煌めく星を見付けなければ。あの寒い日、彼の腕の中に親の元よりも心地良い居場所を見出さなければ。彼らは愚かな恋人ごっこなどせずに済んだのだろうか。



 楽園なんていう物はきっと、何処を探したって存在しないのだ。彼と彼女。異なる相貌に同じ美しさを宿した双子は、今宵も金星の下で形のない愛をたどたどしくなぞるのだろう。








あとがき
タブーとは。タイトルは深爪さまより。


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