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necrophilia



※死体性愛


 狂っている自分をどうにかしようと思った。彼女の隣に立つに相応しい人間になろうと、なりたいと思ったからだ。しかし彼女には歴とした恋人が居た。なら、僕がまともになる必要性なんてどこにもないんじゃあないか。なんて矛盾。ぐるぐるぐる。終わらない思考はまるで、壊れた回転木馬のようだった。

「ねえ聞いて、彼ってばまた待ち合わせ時間に遅れたのよ。呆れるでしょう?」
「……ふうん。きみを待たせるなんて、本当に良い度胸をしてるんだね」
「ふふ。……まあ、そんな所も可愛いって思っちゃうわたしも、馬鹿なのかしらね」

 そう言って笑う彼女を、僕は少しだけ憎たらしいと思った。伏せられた瞼とその視線はあいつに対する慈愛を含み、一層に美しさを増している。そんなのはとても堪え難い気持ちになったし、何よりも気に食わなかった。
 僕は右手を上着のポケットへ突っ込み、あらかじめ中に入れておいたそれを静かに弄ぶ。“それ”が何なのか知らない彼女は嬉々としてあいつについて語り、変わらず僕の心を抉り続けた。彼が、彼がと言い続ける彼女は確かに僕が愛した彼女だったが、可愛さ余って憎さ百倍という風に彼女への憎悪を抑えられない僕が居る。そして僕はそれを撥ね退ける術を、知らない。
 煌めきは、一瞬だった。きっと痛みの絶頂も一瞬だったに違いない。彼女の頬には赤色が一筋、ラインを作っていた。
 嗚呼、やっぱり僕には、まともになるなんて無理だったよ。だってほら、恐怖するきみを見てこんなに心が満たされてる。こんなにも狂喜してる。ねえ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。僕だったら死体のきみをも愛せるから。死んで尚、変わらず愛してあげられるから。

 寧ろ死体の方が良いとか、そんな感じだからさ。








あとがき
ふとした瞬間に書きたくなる異常性愛。


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