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宵闇に光る星屑を君にあげる



 北風が容赦なく吹き付ける中、僕は彼女の手を引き家路へと就いていた。勿論行き先は彼女の家。恋人を家へ送り届けるのは男として当然だと思っているし、何しろ冬場でこの時間帯だ。彼女を一人で帰す訳には行かないだろう。しれだけは僕の正義心が許そうとしなかった。
 握った彼女の掌は小さい上に薄くて、少し力を込めればぽきりと簡単に折れてしまうのではと思う程で。まるで寒さに堪える小枝のようだった。指先は赤く染まり、痛々しい。そんな彼女に少しでも温もりを分けてあげたくて、僕は繋いだ掌をポケットへと突っ込んだ。

「どうしたの? いきなり」
「どうしたもこうしたも、こっちの方が温かいだろう?」

 そう言えば彼女は、そうだね、と微笑んだ。どきり。心臓が跳ねる。上気する頬。心拍数が上がる、上がる。今の僕、きっと格好悪い。僕は身体の火照りをどうにか誤魔化したくて、広い空を見上げた。
 藍に塗り潰されたそれに散りばめられた星々は、ありきたりな比喩だけれど宝石のようだった。あの光が何年も何百年も、もしかしたら何億年も前のものかも知れないと思うと、僕は意味もなく感動してしまった。思わず止めていた足。何事かと驚いていた彼女も僕の視界を支配している物に気付き、また同じように空を見上げていた。

「あ、オリオン座」

 彼女は南東の方角を指差した。小学生でも知っている、冬の星座の代表。ポピュラーなそれでさえも、何故か軽く感動してしまうのが単純な僕なのである。この星はもう消滅しているのかも、とか、何年後かには並びが変わってしまうのかも、とか、そんなちょっとした感慨。
 命を燃やし輝く星を、僕や彼女と少しだけ重ねてみた。僕達と星は似ていないようで、実は似ているのではないだろうか。なんて、そんなのはやはり嫌かも知れない。皆に気付かれるのが何年後とか、命を燃やし生きるとか、そんなのは嫌だった。それに、詩的なのは僕らしくない。
 ふわり、吐き出した息は白かった。








あとがき
青春ですね。


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