今日流れ星見れるんだって。
期待を込めた一言を「ふぅん」で一蹴してくれた三郎を外に連れ出すにはどうしたらいいんだろう。
多分あの感じは右から左に聞き流してただけだと思うんだよね。
めんどくせぇって言われたわけではないし。



「流れ星見たくない?」


「……」


「見たくない?」


「…俺が見たいって言うと思うか?」


「思わない。三郎に限ってそんなロマンチストなわけがないいいたたたたた!!」



うっかり口を滑らせたら思いっきり腕をつねられた。
見た目以上に痛いんだよチクショウ。
いや今のは私が悪いんだけどさ。



「たまにはいいじゃん。夜なら外も涼しいし」


「まぁ、」



たまには悪くないな。

自分で誘っておきながら、まさか三郎の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。
でもまたそれを言ってしまったらさっきの自分の二の舞なので、その言葉は慌てて飲み込んだ。



「あ」


「え、何?!」


「今流れ星見えた」


「うそ!?」



やっぱり夏と言えど夜は涼しい。
近くの茂みからは虫の声が聞こえる。
この場所の昼間のうるささを知っているから、どこか別の場所に来てしまったんじゃないかとすら思えるような不思議な感じだ。

昔の人も見上げていた空。
街や人はどんどん変わっていくけど、空だけは変わらない。
誰かが言ってたそんな言葉に、今ならすごく納得できる。



「あの星も、もう今は存在してないかもしれないんだよね」



チラチラと瞬く星に妙な寂しさを覚えながら無意識にそんなことを言っていた。
と、そこで隣の三郎がどうもおとなしいことに気づいた。
今のは若干恥ずかしいんですけど。
ていうか、さっきから私ずっと独り言みたいになってるんですけど。



「三郎も何か言ってよ」


「お前が口挟みにくいことばっかり言ってるからだろ」


「えぇ!?」


「ちゃんと心の中では相づちうってたし」


「え〜本当?」


「まぁ嘘だけどな」


「やっぱり!」



じゃあ何考えてたの、って言おうとしたけど、そうやって無駄な会話に時間を割いていたら流れ星を見る時間がどんどん減っていく気がする。
「何考えてたか気になるけど、それは後で訊くことにするよ」と一応伝えてからじっと空を見つめると、そんな自由な私の扱いにも慣れている三郎は「はいはい」と答えてまた空を見上げた。



「あ、今見えた!けどお願い事するの忘れてた…」


「あの短時間じゃどうせ無理だろ」


「わかってるけどさぁ」



しかも、そもそもお願い事自体も考えてなかったし、どっちにしろどうしようもないんだけどさぁ。

空がだんだん雲に覆われてきた。
そろそろ潮時かな。
結局1個しか見れなかったな。



「曇ってきたな」


「ねー」


「俺3回見たしもう中入ろうぜ」


「え、何それずるい」



言いながら三郎は立ち上がってしまった。
私はまだ1つしか見れてないのに。
表情で「え〜…」と訴えてみると、三郎はめんどくさそうな顔で見下ろしてきた。



「外の方が涼しいじゃん?」


「いやもう曇ってて星見えねぇだろ」


「あとちょっとだけ待って。あそこに!あそこに雲の切れ間があるから!」


「名前、」


「先戻っててもいいよ」


「俺星見るよりいちゃつきたいんだけど」


「……」



三郎が無表情のままこちらを見下ろしている。
三郎ってそんなキャラだっけ?
しかもそんな冷静にそれを言われると。
私も!とも言いづらいし、星見たいから待って、とも言いづらい。
つまるところ、反応に困る。



「…じゃ、じゃあ中入ろうか」



やや威圧されたかのような感覚にどもりつつ言葉を返した。
三郎は笑いをこらえるような、それでいて優しい表情で、「じゃあ戻るぞ」と言ってくるっと向きを変えた。
小馬鹿にしてこないってことは、機嫌がいいってことだ。
仕方ないな。

もう見えそうにない星は諦めて朝までいちゃついてやるとするか。



少年少女と流星雨


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