「…意地悪」(貞)

「ねえシンジ君、一緒に帰ろうよ!」
「……ヤダ」
 シンジ君ににべもなく断られるのにはもう慣れた。それでも僕は諦めない。シンジ君に思いが通じるまで絶対に。
「嫌って言ってもついてくよ?」
「はあ!? 」
 食い下がる僕に一瞬めんどくさそうな顔をしてシンジ君はため息をつく。可愛い顔なのに眉間にしわを寄せるなんて勿体ないなと僕は思った。
「……ったく。勝手にすれば?」
じろりと僕を一瞥してすたすたと歩き始めるシンジ君。相変わらず不機嫌そうな表情をしているけれど、取りあえず今日は一緒に帰ってもいいらしい。
 嬉しくなった僕は鼻歌交じりにシンジ君の後ろを歩き出した。

 寄り道するでもなく、特別何かを話すわけでもなく、ただひたすらに歩くシンジ君の後ろをひょこひょことついて行く僕。慣れた通学路を通ってシンジ君の家の前で別れるのがお決まりのコースだ。
 それなのに、今僕は何故かシンジ君と喫茶店に来ていた。それもチェーン展開のコーヒーショップなどではなくレトロな雰囲気漂う個人経営の喫茶店だ。
「渚は何飲む?僕はココアにするけど」
 シンジ君の行きつけの店なのか何なのかはよく分からないが、メニューも見ずに飲み物を決めている辺り此処へは来たことがあるらしい。
「えっと……シンジ君と同じのがいい」
 本当はココアなんて飲んだことがなかったけれど、シンジ君が飲んでるものの味を知っておきたかった。
 僕の下心なんて察しのいいシンジ君にはお見通しだろう。文句を言われるのを覚悟していたが、意外にもシンジ君は嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、ココアふたつで」
 シンジ君の澄んだハイトーンボイスが静かな店内に響いた。

「渚はさ、どうして僕なんかがいいの?」
 運ばれてきたココアをスプーンでかき混ぜながら、シンジ君が尋ねてくる。視線はカップを見つめたままだ。
「特別な理由なんてないよ。シンジ君を見てるとドキドキして、もっと君のこと知りたくてうずうずして。シンジ君がいると幸せな気分になるんだ。……だから君ともっとずっと一緒にいたいなって思っただけ」
「そっか……」
 そう言って、それっきりシンジ君は黙ってしまう。静まり返った店内は居心地が悪くて、僕はそわそわした。
 せっかく頼んだココアなのにシンジ君が口を付けようとしないので、僕も何となく飲めないまま時間だけが過ぎていく。
「僕はさ、」
 運ばれてきたココアがすっかり冷めてしまった頃にシンジ君が口を開いた。
「僕は、穏やかな人が好きなんだ。静かで、僕のペースを乱さないでいてくれる人が好きなんだ」
 薄々そんな気はしていた。だってシンジ君は綾波とすっごく仲がいい。彼女はシンジ君が言う好きなタイプにぴったりの女子なのだ。僕なんかとは正反対の、物静かな人。
 きっとシンジ君は綾波のことが好きなんだろうなと思ってはいたけれど、いざその現実を遠回しにだが突きつけられるのはつらい。振るならもっとあっさりと振ってほしいと思うのは贅沢だろうか。
「……意地悪。そんな言い方しなくてもいいじゃん。嫌いなら嫌いってはっきり言ってくれた方がいいよ」
 ついついふくれっ面になった僕にシンジ君は嘆息する。
「馬鹿だな、話は最後まで聞けよ。確かに、初めは渚のことデリカシーのないやつだと思ったし、まとわりついてきて正直迷惑だったよ。でもさ、」
 言葉を切って、ココアを一口飲むシンジ君。ふわりと甘い香りが辺りに漂った。
「でも……いつの間にか君のこと、もっと知りたいと思った。渚といると、楽しいんだよ僕も。……だから僕の好きなものを渚にも知ってほしいと思ったんだ」
 そう言ってシンジ君はカップを持ち上げた。僕は慌てて自分のココアに口を付ける。
 初めて飲んだそれは、甘くて、まろやかで、ほんの少し苦みがあって……恋というものに味があったらこんな風なのかもしれないと思わせるようなもの。
「おいしい。すごくおいしい。こんなの飲んだことない!」
 シンジ君自身が教えてくれたシンジ君の好物は、瞬く間に僕の好物になった。そんな僕の反応に満足したらしく、シンジ君は僕に微笑みかけた。
「渚の好きなものも教えてよ。僕も、渚のこともっと知りたいから」

 初めて見るシンジ君の笑顔はとてもきれいで、とても優しくて。この笑顔を守れるような男になりたいと、僕は願った。

‐おしまい‐



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貞組は他のカヲシンたちと違ってシンジ君が主体になれるCPなので好きです。渚から愛情を与えられるのを待つだけじゃない、ちょっと男らしいシンジ君。大好物なのでもっとください!←



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