ホットココア(庵)

 昼間は初夏の陽気だったが夜になるとさすがに冷えてくる。うっかり開け放したままだった窓から夜風が入ってきてシンジはくしゃみをひとつ、してしまった。
「ああ、窓を閉め忘れていたね……大丈夫かい?」
 カヲルがすっと立ち上がり窓を閉める。そしてもこもことしたブランケットでシンジをくるむと巻き付けたブランケットごとシンジを抱き締めた。
 布越しにじわじわと伝わってくるカヲルの体温。その温もりがシンジを安心させる。カヲルがちゃんと此処にいると感じられるからだ。
「シンジ君の身体、温かくて心地いい。ずっと抱き締めていたいくらいだ……でも、少し待ってて」
 そう言ってカヲルはシンジを解放すると再び立ち上がった。
「カヲル君、どうしたの?」
 シンジは不安なのか寂しげに瞳を揺らす。そんなシンジの丸い頭をカヲルは優しく撫でた。
「大丈夫、すぐに戻ってくるよ。」
「うん……」

 カヲルが巻いてくれたブランケットをほどけないようにぎゅうっと握り締めシンジはカヲルを待つ。キッチンとリビング、シンジとカヲルを隔てる距離は本当に僅かなものなのだがシンジの心は不安で一杯だった。
 幼い頃に二親をいっぺんに亡くしたシンジは、ほんの少しの時間でも好きな人が傍にいないと強い不安を感じてしまう。
 胸がドキドキして息がしづらくなってきた頃、カヲルが湯気の立つカップを二つ手に持ち戻ってきた。
「お待たせ、シンジ君。不安にさせてしまってすまない……さあおいで」
 カヲルがカップをローテーブルに置いたのを見計らってシンジがカヲルにしがみつく。自分の胸元におでこを擦り寄せ甘えるシンジが愛しい。カヲルは嬉しさに笑みをこぼしながらシンジを抱き寄せた。
 しばらく抱き合っていると、不意にシンジが顔を上げた。
「ココア、入れてくれたの?」
 辺りに漂う甘い香りにシンジは漸く気付いたようだ。気持ちが落ち着いてきたのだろう。
「身体が冷えてしまったのかと思って入れてきたんだ。飲むかい?」
「うん!」
 シンジは瞳をきらきらと輝かせてカップに口を付けた。
 少し温くなったココアはシンジにとって飲み頃だったらしい。こくこくと喉を鳴らしてココアを飲むシンジのその愛らしい様は幼子のようでもある。
「おいしい……ありがとうカヲル君!」
「ふふ、それは良かった。シンジ君が喜んでくれて僕も嬉しいよ」
 カヲルが溢れる愛情を込めてシンジのおでこにキスをすると、シンジは照れたように頬を染めた。そして恥ずかしそうに俯きしばし沈黙すると、ふと顔を上げる。
 シンジの薄桃色の口唇がカヲルの口唇にちょんとぶつかったのは一瞬のこと。けれどそのキスは――シャイで愛情表現すらなかなかできないシンジからのキスは、ココアのせいだけではなくとても甘いもので、あまりのシンジの可愛さにカヲルは眩暈がした。
「シンジ君、好きだよ」
「僕も、んっ……カヲルく……」
 カヲルの巧みなキスにすっかり溶かされたシンジは、与えられる熱にただただ翻弄される。
 カヲルの惜しみ無い愛情を全身で受け止めながら、シンジは甘く啼いた。

‐おしまい‐



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カヲル君がいないとダメ!なシンジ君が書けて幸せでした。庵カヲル君にはこれからも庵シンジ君を甘やかしてほしいですね!



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