可愛い柄の絆創膏(貞)

 トントントン、とテンポよく響いていた包丁の音が突然途絶え、渚が訝しげに顔を上げると。
「あ、痛っ!」
 シンジの小さな悲鳴が聞こえた。料理上手のシンジが珍しく指を切ったようだ。
 渚は読んでいた雑誌を閉じた置くと、棚から救急箱を取り出してシンジのもとへ向かった。
「大丈夫、シンジ君?」
 床に座り、シンジは止血のために左手を高く挙げている。深く切ってしまったのだろうと渚は心配した。
「ん、大丈夫。ちょっと血が止まらないから座ってただけ。」
 そう言うシンジの顔は少し青ざめている。傷が痛むのかもしれなかった。
「見せて。」
 渚はシンジの手を取ると傷口をじっと見つめた。止まりかけた血が溜まる傷は確かに少し深そうだ。消毒して様子を見た方がいいかもしれない。
 救急箱から消毒液を取り出して、慣れた手つきで処置していく渚。シンジは痛みに耐えながらも、普段なかなか見ることのできない渚の真剣な表情にひっそりと胸をときめかせる。
「はい、おしまい。絆創膏、止血するのにきつめに巻いてあるから後でもう1回替えるね。」
「ありがと…渚。」
 しげしげと指先を見るとそこに巻かれていたのは何処かの地方のゆるキャラが描かれた絆創膏だった。絆創膏といえば怪我をしたときに使うものなのに間抜けな表情をしたキャラクターが描かれたそれには危機感も悲壮感も全くない。
 真剣な眼差しで手当てしてくれた渚の先程のクールな横顔とその彼が巻いてくれた可愛い柄の絆創膏。それらのギャップにシンジは笑いが込み上げるのを止められなかった。
「ぷっ…あははは!渚、ちょっとこれ。」
「何シンジ君、何かおかしい?」
 突然笑いだしたシンジに渚は不審そうな表情を浮かべながら突き出されたシンジの指を見る。
「え、ちょっと何がおかしいのか全然分かんないんだけど。」
「だってこの柄、全然渚のイメージじゃないからさ。可愛すぎて。あははは!」
 キャラクターものを渚が使っているのが相当おかしかったらしく、シンジはいまだに声を上げて笑っている。
「シンジ君ったら笑いすぎ!たまたま街で配ってたやつなのにさ、それ。…そんなに笑うんならもう手当てしないよ!」
 渚は膨れっ面をぷいっと背けた。それを見てさすがに悪いことをしたなと思ったシンジはひとつ咳払いをして渚の赤い瞳をじっと覗き込んだ。
「シンジ君?…んっ!」
 渚の口唇に触れたのは、シンジの桃色の口唇。
「…ごめん、渚。」
 茶色の瞳がすまなそうに揺れる。
「いいよ。許してあげるからさ、もう1回、キスして?」
 ねだるとシンジは少し戸惑ったような表情をして、それでもキスをくれた。
 貴重なシンジからのキスを二度も味わうことができた渚は満足げに頬笑む。この至福の時間を演出してくれた絆創膏に心の中で感謝を述べつつ渚はシンジの華奢な体躯をそっと抱き寄せた。

‐おしまい‐



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貞組は他のカヲシンたちに比べて感情表現が一番豊かな気がします。自然体と言うべきか。
つんつんシンジ君がデレる瞬間が好きで、ついつい最後が甘くなるのが私の悪い癖。



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