丸ごと君が好き(庵)

 「チルドレン」と呼ばれる仕組まれた子供たちは、第二次性徴を迎えると大きな身体的変化を迎える。
 チルドレンの中で初めて変化を迎えた綾波レイは1週間ほど学校を欠席し、再び姿を現したときは美しい鱗を身に纏った人魚姫のような姿になっていた。
 次に変化を迎えた惣流・アスカ・ラングレーは三角の耳に長い尻尾、鋭い爪を持った猫耳少女へと変貌した。
 そして今、3番目の少年である碇シンジが変化の時を迎えていた。

「怠いのかい?顔色が悪いよ、シンジ君…」
 あまりの倦怠感でベッドで横たわっているしかないシンジはすっかり痩せてしまった顔に力なく笑みを浮かべた。
「大丈夫…心配かけて、ごめんね。」
 シンジの様子は明らかに大丈夫ではない。しかしこれは成長期特有のもので、病気ではないのだ。ゆえに成長がある程度落ち着くのを待つしかないのだった。
 カヲルはため息をつく。次は自分もそうなるだろう。だが自分のことよりもシンジの事が心配だった。レイもアスカも1週間ほどで落ち着いた。しかしシンジはもう2週間はこの状態が続いている。
「あっ、ああっ!!」
 突然シンジが苦しみ始めたのでカヲルは慌ててシンジの元に駆け寄った。
「シンジ君、大丈夫かい?」
 全身が痛むのだろう。苦悶の表情を浮かべるシンジの呼吸が荒くなる。
「あっ、あ…カヲルくん…ぼく、どうなっちゃうのかな…」
 シンジが泣きそうな声で言った。
 シンジが恐れているのはただひとつ。変化を迎えた後の自分がどうなってしまうのか。レイもアスカも彼女たちの魅力を引き立てるような美しい姿になった。けれど自分はどうなるのか分からない。チルドレンたちがどのような姿になるのかは、赤木博士たちにも分からないらしい。
「大丈夫だよ、シンジ君。大丈夫だから…」
 カヲルがシンジの背中を撫でて言うとシンジはホッとしたようにひとつ息を吐いた。
「…そろそろ、みたい。ごめん、ひとりにしてくれる?」
「…分かった。済んだら呼んでおくれ。君の後の処理は僕がしたい。」
「ありがと…」
  カヲルはシンジの唇にキスをひとつ落とすと、部屋を出ていった。

数時間後、シンジの泣き声が聞こえて部屋の外で待機していたカヲルは驚いてドアを開けた。
「シンジ君!」
 カヲルが目の当たりにしたのは、真っ黒な翼をはやしうずくまるシンジの姿。変化して間もないため全身が濡れそぼりところどころ血が付いている。
「こんなのになっちゃった…カヲル君…」
 カラスのような真っ黒な翼。手にはやはり真っ黒な鋭い爪。腕や脚にも黒い羽毛がはえている。その姿にシンジは動揺しているようだった。
「なぜ泣くんだい?こんなに美しいのに。」
 カヲルはぬるま湯で清潔な布を濡らすとシンジの身体を拭き始めた。変化するときは出血を伴う。そのためまずは全身を拭き、それから風呂に入るのだ。
「だって、醜いよ。こんな身体…!」
「そんなことはないさ。シンジ君の艶やかな黒い髪に負けないくらい美しいよ。」
 カヲルは何度も布を洗い絞ってはシンジの身体を拭き続ける。
「で、でも…こんな僕じゃ君には相応しくない。カヲル君はとても清らかなのに。」
 天使のように美しいカヲル。しかしこんなに真っ黒な自分が隣にいてはカヲルの良さがくすんでしまう気がした。
「シンジ君。僕はどんな君も好きだ。頭の先から足の先まで、君のすべてが愛おしい。丸ごと君が好きなんだ。」
「カヲル君…」
「それに君のその翼も爪も、僕には素晴らしいものに見える。君の姿を見た瞬間の僕の気持ちが分かるかい?頭の中で歓喜の歌が鳴り響いたんだ。ああ、君の姿は本当に美しい。」
 カヲルはシンジを抱きしめた。シンジの双眸から涙が溢れる。
「ありがとう、カヲル君…」
「ふふ、どんなシンジ君も愛らしい。さあ、お風呂に入ろう。そのままだと風邪を引いてしまうよ。」
「うんっ!」

 その後風呂から上がって身体を乾かしてみるとシンジの羽毛はフワフワになった。そのやわらかい羽毛の中に顔を埋め真っ黒な羽の中にシンジの瞳を模したような藍色の羽が混ざっているのを見つけたカヲルはまたしても歓喜したのだとか。

‐おしまい‐



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まず。何でこうなった!?と自分にツッコミたいです。でも書いた本人としては楽しかったです。
私の表現力が無さすぎるので伝わらないかと思いますが、シンジ君もとっても美しく変化したのです、実は。真っ黒の羽は光の加減で艶めくような深い藍色に見えて、この世のものとは思えない美しさなのです、実は。



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