甘やかしてほしい?(庵)
晩ご飯を食べてシンジとカヲルはDVDを見ていた。今日は少し前に封切られて一斉を風靡した恋愛映画を借りてきた。しかし話題作というわりに退屈な映画である。
と、突然シンジは肩に重みを感じた。驚いて様子を見るとカヲル君がシンジの肩に頭を預けてうたた寝しているではないか。
「カヲル君…?」
声をかけてみるが起きる気配はない。揺さぶって起こす気になれないシンジはそのままカヲルが起きるまで待つことにした。
思えばカヲルがこのように隙を見せることはなかったような気がする。うっかり眠ってしまったシンジにブランケットを掛けておいてくれたり、シンジが夢にうなされた時は優しく抱きしめてくれたり、不器用なシンジを待ってくれたり。
いつだってカヲルはシンジのためにたくさんのことをしてくれる。けれどシンジが彼のためにしたことと言えばせいぜいごはんを振る舞うことくらいだ。
もう一度カヲルの寝顔を見る。大人びた印象のカヲルだが寝顔は年相応でそのギャップが微笑ましい。
「ん…すまないシンジ君。眠ってしまったようだね。」
ふと目を覚ましたカヲルがまだ眠気の残る瞳を細めて笑う。見たことのないあどけない表情が新鮮でシンジはたまらない気持ちになった。
今までずっとカヲルにしてもらうばかりだったけれど、これからは自分もカヲルに何かをしたい、シンジはそんな気持ちになった。
「…恋人同士とはあのようなこともするんだね。」
カヲルが見つめるテレビ画面では女性の膝にその恋人が頭を預けている。いわゆる膝枕だ。
「カヲル君もやってみる?膝枕。」
シンジが尋ねるとカヲルは嬉しそうに微笑んだ。
正座したシンジの膝の上にカヲルが頭をのせる。
「…膝枕心地いいよ。」
「眠ってしまいそう?」
カヲルはそっと頷いた。そんなカヲルの額をシンジがやわらかく撫でる。
「…ねえシンジ君、」
不意にカヲルが額を撫でているシンジの手をとった。言いかけた言葉の先を促すようにシンジはカヲルの手を握り返す。
「君と過ごしていると心が安らぐよ。まるで梢にとまる鳥になったような気分さ。」
「そう?…それなら、よかった。」
シンジは照れたようにはにかんだ。カヲルはそんなシンジの頬をもう片方の手で撫でる。
「シンジ君…これからも膝枕、してくれるかい?」
「もちろん。」
即答したシンジにカヲルは微笑んだ。
「これからも僕のお弁当を作ってくれるかい?シンジ君の甘い卵焼きが食べたい。」
「いいよ。君のためならなんだって作るよ。」
シンジも微笑み、カヲルの手をもう一度握る。
「これからもシンジ君と一緒にいたい。」
珍しく――というより初めてシンジに甘えてくるカヲルが愛おしくて、シンジは答えるかわりにキスを落とした。
ワガママを言っても受け止めてくれる人がいる心地よさ。これはなかなかいいものだ。
自分を見つめる優しく甘いシンジの眼差しを感じて、カヲルはとても幸せな気持ちになった。
‐おしまい‐
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お題の文言「甘やかしてほしい?」を結局文中に入れることができなくてしょんぼりした作品です。(笑)
でもシンジ君に甘えるカヲル君が書けて個人的にはとても楽しかったです。
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