プラグスーツ(Q)

「渚君はさ、エヴァに乗りたくないって思ったこと、ある?」
 カヲルに背を向けプラグスーツに着替えながらシンジが尋ねた。幾度となく使徒と戦うために乗ったエヴァ。そして出撃の度に着たプラグスーツ。LCLの匂いもプラグスーツのタイトさも慣れていたはずなのに、なぜか今、それがとても苦しい。
「エヴァに乗ることは僕の宿命だからね。考えたこともなかったよ。」
「…そう。」
 カヲルの答えにシンジは押し黙る。
 エヴァに乗れと言われて人類のために必死に戦ってきたはずなのに、14年の眠りから目覚めてみれば自分が人類の敵になっていてどこにも味方はいない。エヴァもプラグスーツも、その残酷な現実をシンジに突き付ける。だから苦しいのだ。
 カヲルならシンジの憂いを晴らすような答えをくれるかと思ったが、カヲルの答えはシンジの欲しているものには程遠い。
 勝手に期待して勝手に傷ついている自分がシンジは滑稽に思えた。
「僕は、」
 重苦しい空気を打ち破ったのはカヲルだった。
「…エヴァがなければ僕は碇君とは出会えなかった。だから乗りたくないなんて思ったことはないよ。でも…」
 カヲルの言葉が途切れ、代わりにシンジがハッと息をのむ。カヲルが後ろから抱き締めてきたからだ。プラグスーツ越しなのに、カヲルの身体のぬくもりを感じる。
「…でも?」
 腰から腹に回されたカヲルの腕にシンジは自分の手を重ねてカヲルの言葉の続きを促した。
「碇君がエヴァに乗りたくないのなら、乗らなくていい世界を僕は作りたい。」
 カヲルの穏やかな鼓動が背中に伝わってくる。シンジの強ばった心が解けていく。
 もう少し頑張ったらカヲルの言うような世界を作れるかもしれないとシンジは思った。
「渚君となら、できるよね?」
「もちろんさ。」
 カヲルの木漏れ日のような微笑みが折れてしまいそうなシンジの心を支えている。次にプラグスーツを着たときには、世界はきっと変わるだろう。希望に満ち溢れた世界へと。
 プラグスーツの窮屈さや、エヴァに乗る恐怖をいつか「あんなこともあったね」と笑いながら思い出せるだろうか。いやカヲルとならきっとできる。
 シンジがカヲルにそっと体重を預けると、カヲルは嬉しそうに笑ってシンジの首筋にやわらかく口付けた。

‐おしまい‐



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初めて参加させていただいた時の作品です。
1時間という限られた時間で書かなければならないので手が震えてなかなか書き進められなかったのを覚えています。



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