グラジオラス | ナノ
Episode 01


Chapter 1

この恋はアルカリ性だから
舐めたらきっと苦い




「亮ちゃんあけおめ、初詣行こう!」


マンションの一室に住むわたしは、その隣に住む幼馴染みの亮ちゃんこと奥野亮の部屋に、新年朝早くから訪れていた。


「朝からうるさい、さむい、もうちょっと寝かせろ」
「どうせ勉強しないといけないんだから、早めに起きてお参りしようよ」
「あーもう分かったから! 分かったから布団はがすなよ!」


亮ちゃんはわたしを部屋から追い出した。
わたしは亮ちゃんの支度を待つ間に、おばさんとおじさんへの挨拶をすませた。


「そういえばゆきちゃんは?」
「ああ、幸也なら昨日から−」
「ちい、さっさと行くぞ」
「え、あ、うん。 それじゃあ行ってきます」


おばさんにゆきちゃんの行方を聞き損ねたなー、なんて思いながら、先におばさんとおじさんに挨拶すると言う亮ちゃんについて行き、一旦家へと戻った。
しばらくして、わたしの母と父への挨拶をすませた亮ちゃんと、神社へと向かった。

わたし達は近所にある小さな神社に行く前に、バスを乗って十分くらいの所に位置する、少し大きな神社へと向かった。


「結構早めに来たのに、人でいっぱいだね」
「そりゃあ初詣だしな」


マフラーに顔をうずめながら少し気だるそうに言う亮ちゃんを長蛇の列に並ぶよう促した。


「あー、ひまー」
「そういうと思ってちゃんと亮ちゃんの分の単語帳持ってきたよ」
「うっわ! 何持ってきてんだよ! まじめかっ」


しかも古文単語とか吐くわーなんて言っている亮ちゃんをよそに、わたしは英単語を覚えていた。

しばらく並んでようやくわたし達の順番がまわってきた。
わたしと亮ちゃんは、寒さですっかりかじかんだ手で五円をお賽銭箱に投げ入れた。

受験合格しますように・・・
あと・・・

いけない。二つも祈るとか欲張りはいけないよね。


「亮ちゃんなんてお願いごとした?」
「あ? そりゃあ合格だろ。 あとは野球上達しますようにって」
「え!? 亮ちゃん二つもお願いごとしたの?
わたしも二つお願いごとすればよかった」


わたしがいじけてると、亮ちゃんは何をお願いしたかったん?と聞いてきたので、言うのを躊躇った。
もちろん、それを察した亮ちゃんは冷たい手をわたしのうなじに当てて、わたしが自白するように促してきた。


「さっさと言えよ、 隠し事はなしだかんな!」
「ひえぇ、わ、分かったから手離して! 」
「ほら、離したぞ」
「あ、あのねぇ、もう一つは−」
「亮、ちい!」


わたしが勇気を出して言おうとしてるのを、誰かが遮った。
わたしは聞き覚えのあるその声がする方を振り返った。



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