小説 | ナノ
バレンタインの魔法
「征二郎、チョコあげるー!」
「義理・・・だろ?」
「ぶふっ! 当たり前じゃん!」
「い、一応聞いてみただけだし!」
「はいはい。 あれでしょ?」
「“リコチャン”でしょ?」
去年の春、受験生だった俺は苦労の末、無事に東京の大学に合格した。
俺が受かったと言った時、彼女である“リコ”が自分の事のように泣いて喜んでくれていたのを今でも鮮明に覚えている。
でも、新幹線でも900kmほど離れている広島と東京。
俺も彼女も遠距離になることになにかしら不安を抱いていた。
特に俺は、遠距離になることで彼女を縛り付けるような気がして、何度か別れ話を切り出した。
その度に、
「来年行くから、東京で待ちょおってね!」
そう言って泣くのガマンして笑ってた。
年下なのにそういったところで強い彼女のおかげで、遠距離恋愛を続けられている。
「・・・そうだ! ぶち可愛いカノジョがいるんだよ。」
「うっわー惚気ー! そして広島弁! じゃあもう電話したんだ?」
「・・・」
「え、まさかしてないの!?」
そう。
隣にいる女友達の言う通り、彼女から連絡がきてないのだ。
マメな彼女は、受験生という身であっても俺の誕生日やクリスマス、その他記念日に必ず連絡をくれる。
それなのに、バレンタインである今日がもう終わろうとしているのに、まだ来ていないのだ。
「あいつ、入試終わった筈なんだよ。」
「あー、うちの大学でしょ?」
「ああ。」
「どこの学部受けたの?」
「文学部の英文学科」
「え、そこって昨日合格発表じゃなかったっけ」
「ああ」
「どうだったの? リコちゃん」
「・・・」
「まさか! お、おち・・・」
「知らん! 聞いてねぇ!」
「え、それも連絡きてないの?」
バレンタインだけでなく、合格発表さえもこちらに連絡きていないのだ。
そうなればもう、不合格で連絡されできないって捉えるしかないだろう。
「だから、昨日も今日も講義の合間に携帯見ては落胆してたんだー!」
「・・・」
他人事じゃ言うて思うてそがぁな安易なこと言いやがって。 いや、他人事なんじゃけどな。
バレンタインもだが、合否の連絡がないことで不安になっている俺は、隣で一人でほざいてやがる友人に舌打ちをしながら、大学の門を出ようと足を踏み入れた。
「征くん・・・!」
お?と友人が言ったと同時に俺は踏み入れた足を止めた。
だって、いないはずの彼女の声がしたから。
「り・・・こ・・・?」
声のする方を振り向くと、彼女がいた。
俺は幻でも見ている気がして、目の前にいる彼女の存在を安易に信じることができなかった。
しかし、彼女が抱きついてきたことで、それは現実だと認識した。
「り・・・こ・・・!?」
「征くん会いたかった・・・!」
「わ、わかったけぇ! ここ大学の門・・・!」
抱きついて離れない彼女にそう伝えると、顔を真っ赤にして静かに離れた。
隣で友人がニヤついている。うざ。
「りこ・・・。おまえいつこっち来たんで。」
「あ、えっとね」
「なんで連絡でなかったん? てか、親は知っとるんかよ。 入試結果どうなったんじゃぁや。」
俺の少し怒りを孕んだ質問の山に、眉を八の字にして困惑する彼女。
少し目が潤んできたようだが、連絡が来なくて昨日からずっと不安だった俺にとっては、彼女のそれは苛立ちを促進させるだけである。
「あんね・・・征くん・・・」
「ったく・・・俺がどれだけ心配したって思うとるん。 しかも急に大学に来るし・・・。」
「ぁ・・・ごめん・・・」
とうとう泣き出す彼女。
泣き出したと同時に、俺は自分の態度にひどく後悔した。
心配したのはほんま。
でもそれ以上に、会えてぶち嬉しいんで。
そう伝えたいのに、喉がつっかえて声が出ない。
それを見ていた友人が、黙る俺と啜り泣く彼女の沈黙を破った。
「とりあえず・・・目立つからどっか入れば?」
友人は、俺じゃなくて彼女の味方をしたのか、彼女にハンカチを貸してあげ、大学の近くにあるカフェへと促した。
「征二郎・・・広島弁は結構新鮮だけどー。」
「・・・」
「女の子泣かしちゃダメよ。」
カフェへ入った俺たちは、先に彼女を席へ促して、2人で話していた。
広島弁新鮮って・・・。
「・・・」
「怒る気持ちもわかるけどさ、心配してたことも知ってるけどさあ・・・」
「・・・」
「広島から東京にきて、しかもこんなとこまで女の子一人できて、どれだけ不安だったか察してあげなよ。」
友人の言葉で、さらに自分の言動に後悔が増した。
「とりあえず、わたしは帰るから、しっかり話して不安取り除いてあげなよ?」
「“ぶち可愛いカノジョ”なんでしょ?」
「・・・わりぃ。ありがとな」
「いいってことよ。 ホワイトデーはゴディバでいいからね」
「おい」
俺は友人を見送り、少し落ち着いたようすの彼女に向かい合うように座った。
「りこ」
「征くん・・・ごめんね」
「りこ」
「うち、驚かせたくて・・・。でも迷惑じゃったよね。」
「りこ!」
「・・・っ」
「・・・ごめん。」
そう言うと、彼女は横に頭を大きくふる。
「りこ、会いに来てくれてありがとう。
さっきはキツいこ言うたが、ホンマはぶち嬉しかったんよ。」
「征くん・・・」
「広島からここまで来るんに、不安じゃったやろ?
俺、察してあげれんくてごめん。」
そう言って彼女の目に溜まっている涙を親指で拭ってやった。
「征くん・・・」
「ん?」
「合格したよ・・・」
「そっか」
「おめでとう」
テーブルを隔ててだけど、俺はさほど大きくない体を彼女の方に精一杯伸ばして、抱きしめてそう言ってやった。
ホッとしたのか、彼女は俺がそう言った後に、先程よりさらに泣いていた。
「征くん・・・! 会いたかったよ・・・!」
「俺も」
「やっと、やっと一緒におれるよ・・・!」
「そうやな」
「征くん・・・」
「ん?」
「大好き・・・!」
そう言ってようやく笑みを浮かべた彼女が愛しくて、ここが大学近くのカフェであるということも忘れて、軽くキスをした。
彼女は、東京にいる友達の家に遊びに行くと言って親に誤魔化したらしい。
友達いたのと聞けば、当たり前のように俺の家に泊まると言い出すもんだから、彼女の親に申し訳なくなった。
俺は家までの道のりを彼女と手を繋ぎながら歩いていた。
「東京ってそがぁに寒ぅないんじゃね。」
「広島のが案外寒いよの。」
「うん。でも雪は東京のがすごいね。」
「俺もこっち来てびっくりしたんで。」
鼻を真っ赤にして、降り続く雪を見る彼女の手を、俺のポケットの中に入れた。
「へへ、」
「なんでえ。」
「征くんのポケットのなか、ぬくいや。」
へにゃりと微笑むもんだから、立ち止まって彼女の額に口付けた。
彼女はポケットの中で繋がれた手を、ぎゅっと強く握ってきた。
「今日うちが料理作っちゃるよ。」
「まじで? 鍋がええ。」
「何鍋する?」
「んーキムチ鍋」
「う・・・頑張る。」
「おう」
「あと、チーズケーキ作る。」
「え、チョコじゃないん。」
「チョコよりチーズケーキのが好きじゃろ?」
「うん」
「じゃあ決まりよ。」
パッと後ろを見ると、俺と俺より少し小さい彼女の足跡が残っていることに、少し照れくさくなって、強く握る彼女の手を、さらに力強く握った。
バレンタインの魔法(ほぃじゃけど、雪がようけ降るね。)
(ホワイトバレンタインじゃん。)
(ホワイトどころじゃないよ。)
(なんでもいいけぇ、はよいの。寒ぅて死にそう。)**********
ぬくい - 暖かい
はよ - 早く
〜けぇ - 〜から
いの - 帰ろ
ぬくいが方言だったとは知らなかった。
そして、自分が使わない広島弁たくさんあって難しかったっすよ!
遠距離恋愛系のバレンタインネタ書きたかったので、1時間使って書きました。
まだ入試結果出てない人とかいるだろうから、神経逆撫でたりしないか心配してたり。
国立は二次試験まだでしたよね?!
てか、amoもまだ入試結果出てないから、これ書いてるときドキドキしてたり。
そして、すごい雪ですね!
今京都に帰省してるけど、無事広島に帰れるのか心配・・・。
みなさんもバレンタインだけど、雪にはお気を付けて!
2014.02.14
>>
main page