13.続・女子会















「そうだ、なまえ先輩の居た世界の話、聞かせてくださいよ!」
「私の世界?」






食事を終えて各々デザートを食べている中、突然思い付いたように春奈ちゃんが言った。



……私の世界の話、か。
確かに、違う世界の事なんて興味はあるだろうけど…そんなに大した話はないんだけどなあ。
基本的には、こっちと何ら変わりないし。

モンブランの天辺に鎮座している栗を突っ付きながら、考えるように唸る。
興味津々、といった風に爛々と光る春奈ちゃんの目を見詰め返して、ゆっくりと言葉を発した。






「ううん、そうは言っても…こっちと違う所なんて、特にないんだけど…」
「でもでも、なまえ先輩の世界では、こっちの世界がゲームになってるんですよね?」
「ああ、うん。DSの…携帯ゲーム機のね、守君が主人公の雷門サッカー部の話だよ」
「あー、やっぱり」
「キャプテンって、まんま主人公!って感じですもんねー」
「確かに、そんな雰囲気だわ」
「でしょでしょ?」




やはり恋する乙女(+α)だからか、守君の話になると盛り上がるなあ。なんとなく嬉しそうに語る乙女達はとても可愛らしい。
守君は主人公気質、から始まり、円堂君のこんな所が……そういえばあんな事も……なんて話す皆をにやにやと眺めていると、春奈ちゃんが再度私に話題を振ってきた。








「そういえばなまえ先輩って今、円堂キャプテンのお家に住んでるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあじゃあっ、何かないんですか?そういうの」
「そういうのって?」
「そりゃあ勿論、恋ですよ!恋!」




だんっ、とテーブルに身を乗り出して、春奈ちゃんが楽しそうに訊ねる。
…一瞬で他の二人の空気が変わったのは、敢えて気にしないでおく事にしよう。





「恋って…私と守君が、ってこと?」
「勿論です!」



ニコニコと私に詰め寄る春奈ちゃん。
しかし横目で秋ちゃんと夏未ちゃんの反応を窺っているのが、私にはバレバレですよー。
あなた楽しんでるでしょ、確信犯でしょ?
先輩の乙女心で遊んじゃ駄目ですよー。







「ううん、悪いけど、そういうのはないよ」
「えー!でもぉ…」
「…音無さん、あまりそういう事を根掘り葉掘り聞き出すのは良くないわよ」
「そうよ、音無さん。なまえちゃんが困ってるでしょ?」



二人から助け船が出されると、春奈ちゃんはにやにやしながら案外あっさりと引き下がった。


……ように見えた私の目は、節穴以下だった。















「じゃあ、なまえ先輩って、風丸先輩の事好きなんですか?」
「えっ!?」



諦めるどころか、とんでもない爆撃を仕掛けてきた。
春奈ちゃんの言葉で一気に流れを変えられ、今度は秋ちゃんと夏未ちゃんまでもが興味津々に私に視線を注いだ。



「なっ、は、春奈ちゃん、何言って…!!」
「あ、やっぱりそうなんですねー!」
「違っ、そんなんじゃないってば…!」




つい慌ててしまった私を、図星ですねー!とからかう春奈ちゃん。
そ、そりゃあ好きと言えば好きだけど、それはゲームのキャラとしてとか、憧れてるってだけで!
恋愛とか、そういうのじゃなくて…っ!






「でも、風丸君と話す時は顔が赤くなってるよ?」
「緊張してるのバレバレですよー」
「そ、そんな事ないよ…っ」
「あら、だけどまだ出会って一週間くらいでしょう?お互いの事もあまり知らないのに、好きになるなんて…」
「もー、夏未先輩ったら!恋は理屈じゃないんです!ほら、一目惚れとかもあるじゃないですかー」
「それに、翔ちゃんは風丸君の事、ゲームの登場人物として知ってたのよ。ここに来る前から好きだったんじゃない?」
「あ、秋ちゃんはエスパーなの…!?」
「あら、当たりみたいね」
「やっぱり好きなんですね!」
「はっ、嵌められた!」




なんて狡猾な誘導尋問!
愉悦の笑みで私を見てくる彼女らに勝てる気がしない!
しかし負ける訳にもいかない…!
ここからどうやって誤魔化そうかと、脳をフル回転させてみたけど、やっぱり勝てる気はしなかった。




「なまえ先輩、部活中でも風丸さんを目で追ってるじゃないですか」
「えっ!ち、違うよね?そんな事ないよね、夏未ちゃん!」
「さあ、あまり顔を出さないから、分からないわ。音無さんが言うなら、そうなんじゃない?」
「ち、違うってばー!」
「いーえ、絶対に好きです!見れば誰でも分かります!」
「えっ、うそ!?」
「やっぱり好きなの?」
「いや、そうじゃなくて…!」

楽しそうに此方を見る三人。
な、なんか夏未ちゃんまで早く言っちゃいなYO☆的な眼差しで見てくるんだけど…!






「その、別に好きとか嫌いとかじゃなくて、ただの憧れっていうか…!」
「憧れって?」
「…風丸君は、優しくて強くて、だけど弱い部分もあって。途中で間違えたとしても、最後にはそれを真っ直ぐ受け入れられる心を持っていて…」





そういうところ、素直にすごいなあって思って。
自分の弱味を理解して、其れに向き合える事は簡単じゃないから。
だから、それが出来る風丸君は、とても格好良いと思うんだ。







「まあ、そういう所に憧れてるだけだよ?」
「うーん…要するに好きなんですね!」
「だからなんでそうなる」




あれおかしいな、さっきの流れと全く変わってないよ?
しかも私、なんか今すごく恥ずかしい事を語ってなかった?





「まあまあ、なまえ先輩が風丸先輩を好きなのはよーく解りました!」
「そうねえ」
「ええ、確かに」
「えっ…!」





再度嵌められたと気付いたのは、にやりと笑う春奈ちゃんに、秋ちゃんと夏未ちゃんが同意を表してからだった。