04.コミュ障転校生




今後の私の大問題は、抱えた側から解決してしまった。
円堂君…守君に言われた後、彼のお母さんからも直接、本当に居候の許可を頂いた。
迷惑でないかと思ったのだが、娘が出来たみたいで嬉しいわ、なんて、寧ろすごく上機嫌になって、少し安心した。
そして学校の事なのだが、守君が夏未ちゃんに連絡して事情を説明してくれたところ、なんと雷門中学に転入出来ることになった。
まさかあの令嬢夏未様が私の経緯を信じてくれたのか、いやもしや守君が嘘でも吐いたのかと思ったが、守君に聞いてみると、「円堂君が言うのなら、信じるわ」…とか言われたそうで。恋する乙女は可愛いです。はい。


という事で、有り難い事に守君のおかげで中学生ホームレスの危機は免れた。
そして今日から、早速学校へ通える事となった。







「なまえ、準備出来てるか?」
「うん、大丈夫」


洗面台から戻ってきた守君が、大きな声で呼び掛ける。
丁度洗い物が終わったところなので、借りたエプロンを外しながらダイニングへ戻った。




「ありがとうね、なまえちゃん」
「いえ、居候なんですから、出来ることは何でもお手伝いさせてください」
「もう、居候だなんて。うちの娘になった気でいたって良いのよ」
「そうだぜ、あんまり気使うなよ!」



おばさんと守君が、笑ってそう言う。
おじさんも、コーヒーを飲みながらうんうんと頷いた。


「…ありがとう、ございます」



嬉しいなあ。
本当に、有り難い。
感謝しきれないや。






「じゃあ、そろそろ学校行こうぜ」
「あ、うんっ」

守君に促され、自分の鞄を手にした。
今日の装備は、昨日私と共に飛ばされたらしい愛用の通学鞄と、着ていた前の世界での制服。
鞄は、登校中だった事故当時のままの中身のようで、筆記具やポーチなどが全て入っている。
教科書も入っていたけど、此方のものとは違うから、抜き取って部屋に仕舞っておいた。
雷門の制服は流石にまだ準備出来ていなくて、今日の放課後、サイズ合わせをして貰う予定だ。





「それじゃ、いってきまーす!」
「行ってきまーす」


玄関で見送ってくれたおばさんに手を振り、守君について通学路を歩き出した。






「守君、昨日は、色々ありがとね」
「ん?ああ、家にきたことか?全然いいって!俺が言い出したんだしさ」
「えっと、その事だけじゃなくて…昨日、守君と会えなかったら、多分私、此処がどこかすら解んないままだったと思うよ」



そう、本当に、もしもあの時、円堂君と会えなかったら。
もし、飛ばされたのがあの場所じゃなかったら。
もし、現れた瞬間を見られなかったら。
もし、出会ったのが円堂君達じゃなかったら。
私はきっと、まだ途方に暮れていただろう。
純粋で優しい彼だからこそ、私は本当に助けられたのだ。




「ありがとう、守君」


もう一度お礼を言うと、守君は照れ臭そうに笑った。




















朝の教室。黒板にチョークを擦る音が、かつかつと響く。
私の名前を書き出して、先生は教卓へ向き直り話し出した。
その間、終始私に向けられる、クラス中の視線。

…うう、緊張する。
転校とか転入とか、した事無いんだよね。
こんなに緊張するもんなのか。
ていうか私、人見知りなんだよね…大丈夫かな。
友達出来なかったらどうしよ。
全体を見回す余裕もなく、思わず俯いてしまう。
不安を覚えながら、先生に言われるままに席へ移動する。
机の間を縫うように歩いていると、見覚えある顔が目に入った。




「あ…守君」
「同じクラスで良かったな、なまえ」

にっこりと笑う守君を見て、少し安心する。
笑顔を返すと、なまえの席ここだぜ、と、隣の席を指差した。

















「…はあ、やっと終わった…」


終業の会、先生の話を聞きながら呟く。
…うう、疲れた。主に皆からの質問攻めが。
何故か皆、主に守君との関係をやたら訊いてきた。
いやまあ、転校直ぐに名前で呼んだり仲良くしてたら、そりゃ気になるか。
本当の事は話しても信じて貰えないだろうと昨日守君と考えた設定通り、守君の親戚という事にしておいた。
しかし、転校生に質問攻めって、本当にあるんだなあ。
まさか一日中囲まれるとは思わなかった。
中学生の好奇心って凄い。




「なまえ、これから制服合わせに行くだろ?」
「あ、うん」


守君が、隣で荷物を纏めながらこそりと尋ねる。
そういえば、守君が夏未ちゃんの部屋まで案内してくれるって言ってたっけ。
まあゲームやってたから、大体の校内図は把握してるつもりなんだけど。
流石にゲームみたく簡単な造りじゃないだろうし、折角なので守君が色々案内してくれる事になっていた。



「悪いんだけどさ、俺、ちょっと先生に呼ばれてるんだよ」
「そうなの?」


守君はごめんな、と言いたげに小さく手を合わせて、話を続ける。






「だからさ、代わりに、風丸に頼んだから」