さまーばけーしょん!
キャラ崩壊とミハイルの扱いにご注意
「おおー!砂浜だー!」
「海だあああ!」
眼前に広がる青色に、アラタと二人、感激の声を漏らす。
同時にビーサンを脱ぎ捨てて、一目散に浜辺へと走り出した。
「……って!ちょっと待て!!」
「ぐえっ」
…否。
走り出そうとしたのだが、がしっと襟首を掴まれ、強制的に足を止められた。
アラタはそのまま一人で走っていった。
「い、痛い…」
「何やってるんだお前は!」
「何って…寧ろこっちの台詞なんだけど。いきなりか弱い女の子の首根っこ掴むとか、有り得ないよミハイル!」
「か弱い女の子だと…?」
「お前まじコロス」
「いや、そんな事はどうでもいい!」
「全然どうでもよくないんですけど」
「いいかナマエ、簡単に瀬名アラタと仲良くするな!」
「え?なんで?あっまさかミハイル妬いて「なんでじゃない!ジェノックだぞ!?敵と仲良く水遊びなんか出来るか!!」
「……」
私が喋ってるのに被せんな。
そしてスルーすんな。
これだからミハイルはKYなんだよばーか!
滑ったみたいでなんかちょっと恥ずかしいじゃんか!
「大体、何故ジェノックの奴らなんかと一緒に海に来なくちゃならないんだ!」
「もー、うるさいなあミハイルは。夏休みくらい、そういうのナシで良いじゃん!ねえ、ムラク?」
「ああ、そうだな」
「な…っムラクを味方につけるとは卑怯な…!」
ぎりりっとなんだか悔しそうに私を睨み付けるミハイルを、ムラクは呆れた視線を送るだけで放置して、浜へ歩き出す。
私もヴァネッサやカゲトと一緒に、ミハイルを無視して其れに続いた。
ふん、これだからミハイルはムラク厨なんだよばーか!
ミハイルなんて砂に埋もれてしまえばいいんだ!
砂浜にレジャーシートを広げて、小さなテーブルとパラソルを置く。
シートが飛ばないように四隅を留めたし、飲み物や着替えなんかの荷物も全部あるし、パラソルによってシート内は完全なる日陰。
よし、これでセット完了!
立派な休息所が出来た。
「ねえねえムラク、泳いできていい?」
「ああ。準備体操をしてからな」
「やだムラクさんまじお母さん」
「さすがムラクさんまじお母さん」
いつものようにキリッと真面目な顔して言うムラクに、カゲトと二人でずっきゅんされた。
さすがは我等がムラクさん、何を言ってもかっこいい。
言われた通り準備体操しながらカゲトと一緒にムラクよいしょをしていると、遠くから名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、ムラク、ナマエー!早く来いよー!」
「アラタ…」
「あ、うんっ、今行くー!」
声の方向を見ると、アラタやユノ達が既に水着になって海で遊んでいる。
手を振って叫ぶアラタに叫び返してから、着ていたパーカーワンピのジッパーを下ろした。
「なっ!?待てナマエこんな所で着替え…!!」
「え?」
途端、ミハイルが慌てた様子で顔を隠した。
…ああ、もしかしてこいつ。
「あのねえ、中に水着、着てるんだけど」
「は…?」
そう言うと、ぴたりと動きを停止して呆けるミハイル。
やっぱりこいつ、私が脱ぎ出したのを見て慌てたな。
さすがに私でも、こんな公衆の面前で生着替えとかしないから!
ていうか私、来る道でその話したよね?
中に水着着てきたって話、したよね?
「なのに、裸になるとでも思ったの?ミハイルのえっち!」
「なっ!?ち、違う!そんなつもりでは…」
「見損なったぞミハイル」
「流石に気持ち悪いっス」
「お、お前らまで…!」
私に同調したヴァネッサとカゲトの言葉に、ミハイルは頬を赤くして弁解する。
「む、ムラク…!」最後の希望とでも言いたげな目でムラクに縋るミハイルに、少し考える素振りをしてからムラクが口を開いた。
「…ミハイル、いくらナマエが好きで仕方無いとは言っても、公衆の面前で興奮するのは良くない」
「な!?」
「ぶっ…」
「ふはっ!ムラクさん、それはっ…あっはははは!」
「ひゃはははっ!やば、ムラクやばい!」
変わらぬ真顔で言い放ったムラクに、思わず吹き出すヴァネッサと、爆笑するカゲトと私。
そして更に真っ赤になってテンパるミハイル。
ムラクって天然なのか何なのか、偶に真顔で爆弾吐くよね!
おかげで私とカゲトの腹筋は大分鍛えられております。
「ミハイル…そんなにナマエの事が好きだったのか…」
「もしかして、ナマエの裸でも想像したー?」
「やだぁ!ミハイルったら!」
「お、お前ら…!!」
こんな良いおもちゃを逃す訳もなく、三人で口々にミハイルを茶化す。
完全に冷静さを失ったミハイルは、既に涙目になっていた。
「お前達、そのくらいにしておけ」
「えー」
「でも今良いところっスよ?」
「偶にはこれくらい良いじゃないか」
「ムラク…!」
未だけらけらと笑いの止まらない私達に放ったムラクに、ミハイルは神様でも見るような目で縋る。
「ムラク、お前だけが俺の味方だ…!」
そう言うミハイルに、ムラクは僅かに首を傾げる。
ミハイルが縋る意が伝わっていないのか、一瞬怪訝な顔をしてから、いつもの真面目顔で此方に向き直った。
「そんな事はどうでもいい。アラタが呼んでいるから、早く行くぞ」
ムラクの追い討ちに、私達の爆笑は免れなかった。
あとミハイルは泣きながらどっか行った。
さまーばけーしょん!
(なあナマエ、そういえばミハイルは?)
(一人で潮干狩りしてる)