いじわるなきみ





「優一、入るよー」


からり、と扉を開けた時、彼はベッドの上で目を閉じていた。


「…なんだ、寝てるのか」


そっとベッドに近付くと、優一は小さく寝息を立てていた。
折角会いに来たのにな。
でも、窓から射す昼下がりの陽気が心地好い。
確かにお昼寝には丁度良いかも、なんて考えながら、音を立てないように手荷物をテーブルの下に置いて、側の椅子に腰掛けた。

この病室にも、大分長いこと通っている。
昔は苦手だった病院の雰囲気や、部屋に染み付いた薬の匂いにも、もうすっかり慣れてしまった。
こんなの慣れても嬉しくないんだけどなあ、と、眠る優一の顔を覗き込んだ。
瞼に掛かる髪をそっと梳いて、目を瞑ったままの優一を眺める。
ううん、いつ見ても格好良いな。
整った顔立ち、白い肌。
昔に比べて大人になった彼は、未だにどきどきするほど格好良い。
……ああ、でも、やっぱ、


「…寝てるときは、可愛いなあ…」


どうして、寝顔というのは幾つになっても子供なのだろう。
大きくなって沢山変わった筈なのに、寝顔だけは子供の頃と全然変わらない。
可愛い、可愛いなと思って眺める優一の寝顔。
んー、なんだかすごく、愛おしい。


「……ちゅう、しちゃおっかなあ」


話し掛けるような、少し大きな独り言。
閉じた唇は返事をする訳も無くて、私は勝手にそれを重ねた。


ちゅ、ちゅっ、ちゅ…


僅かに音を立て、何度も唇を押し当てる。
優一の唇を、何度も何度も奪って、それでも足りず頬や額にも口付けを落とした。
其れを暫く続けてから、ゆっくり顔を離す。
おでこが擦るような距離で、好きだよ、と呟いた。
もう一度だけキスを落として、身体を起こす。
一連の行為に満足して、にへらと笑った。とき。




ぱち。


「あ」
「…おはよう、なまえ」


突然、優一がぱっちりと目を開けた。
ついさっきまで寝息を立てていた筈のその顔には、起き抜けの眠気は一切感じられない。
……あれ、こいつ、もしかして。


「……いつから起きてたの」
「ん?何が?」


にやにやと口の端を吊り上げてとぼける優一。
ああ、もう。意地悪い奴!


「もうっ…いつから聞いてたのよ」
「ん?そうだな…"なんだ、寝てるのか"…くらいからかな」
「それ部屋入って第一声なんだけど」


端から起きてたのか、こいつ。
ていうか、うわ、恥ずかしい事した…!


「もー…っ恥ずかしい…!目ぇ覚めてたんならすぐ起きろ、ばか!」
「ははっ、ごめんごめん」


くすくす笑う優一。
腹立つ、けどやっぱ、格好良い。


「…ばーか」
「ごめん、ってば」


ぶちぶち文句を言いながらも、上半身を起こそうとする優一の身体を支える。
ただし優一が未だくすくすと笑っているのは、すこぶる気に食わない。


「優一のばか。いじわる。どえす」
「何だよそれ。…じゃあ、これでおあいこにしよう?」


そう言うと、優一の体に添えた私の腕をひいて、頬を撫でて……




ちゅ。
口付けた。


「ん…ッッ!」


びっくりして、離れようとすると、体ごと押さえ付けられる。
抱き締められた形のまま、唇も重なったまま。
口付けは次第に深く激しくなり、いつの間にか舌を絡め取られていた。
ベッドの縁に膝をついて、優一の身体に縋るようにしがみつく。
抵抗なんて既に出来る筈もなく、必死に舌を動かしながら優一に身を任せた。


「…んっ、はぁ…」


暫くの間ディープキスが続いて、やっと解放される。
此方を見上げた優一の顔は、至極満足そうに言った。


「これで、おあいこ。ね?」
「……う…ん、っ…」


優一の言葉に、こくこくと頷く。
酸素が足りないのか、口付けに酔ってしまったのか、まだ少しくらくらきてる頭を頑張って回転させようとしていると、




「なまえ、愛してるよ」
「……!」


極上の笑顔で言い放った優一は、やっぱりすごく可愛くて、すごく格好良かった。




いじわるなきみ

(どんな優一も、大好きだよ)