鈍感ラバーズ
「秋ちゃん、秋ちゃん。ひとつ相談があるのですが」
部活の合間、なまえちゃんが神妙な顔つきでそう言った。
「なあに?」
「あのですね、その…最近、豪炎寺君が、冷たい、気がして…」
タオルを畳ながら、ぼそぼそと呟くなまえちゃん。
なまえちゃんが豪炎寺君を好きだという事は、前々から相談を受けていた。
しかし、まさかそんな相談をされるとは、思っていなかった。
「冷たい、って、豪炎寺君が?」
「うん…なんていうか、あたしにだけ態度がそっけないっていうか…」
「うーん…さすがに気のせいじゃない?」
「そんな事ないもん!だって、あたしから話しかけても、ああ、とか、そうか、とか相槌しか返してくれないし…それどころか、目も合わせてくれないし…」
今にも泣きそうななまえちゃんの頭をよしよしと撫でる。
…ううん、相槌しか返さないのはともかくとして、目も合わさないっていうのは問題かもしれない。
なまえちゃんは決して嫌われるような子じゃないし、豪炎寺君だって意味もなくそんな事をするとは思えない。
「……ね、なまえちゃん。ちょっと豪炎寺君とお話してきて」
「え!あ、秋ちゃん、私に死んでこいと…!?」
「違うわよ。どうして豪炎寺君が冷たいのか、私が見極めてあげる」
「みっ、みきわめ…」
表情から嫌だ無理だと訴えるなまえちゃんを、半ば無理矢理に立たせる。
もう、今まで沢山アタックしてきたのに、今更何を弱気になってるの!
肩を叩いてそう言うと、なまえちゃんはでも、と口籠った。
けれど、そんな事は気にしない。
なまえちゃんが畳んだタオルと、クーラーボックスから出したドリンクを、彼女の腕の中に押し込んだ。
「ほら、丁度休憩だし、それ持って行ってきなさい」
「えええ、待って待って無理無理無理無理いいぃぃぃ」
「良いから、ほら!」
監督から休憩の合図を貰って、ベンチへ帰ってくる部員達。
その中に混じる豪炎寺君の方へ向かって、とん、となまえちゃんの背を押した。
「うええん、まさか秋ちゃんが鬼だったなんて…天使だと信じてたのにいいいい」
「訳の解らない事言ってないで、頑張りなさい」
強引に観念させられたなまえちゃんは、秋ちゃんの鬼ぃぃぃぃ!とか叫びながら、破れ被れに突っ走っていった。
「…さて、まあ理由は多分、そうなんだろうけど」
一応、見極めてあげますか。
照れながらタオルを差し出すなまえちゃんと、それを受け取る豪炎寺君。
あ、なまえちゃんが頑張って話し掛けてる。
ああでも、豪炎寺君は、時々頷きながらも目を逸らしている。
正になまえちゃんの言う通り。なのだけど。
その頬が、柔く赤らんでいるのに、彼女は気付いていないのかしら。
「…どこからどう見ても、両想いなのにね」
周りは皆気付いている、二人の恋心。
当人達がそれに気付くのは、いつになるのかしら。
顔を赤くして此方へ駆け戻ってくるなまえちゃんを見て、ふう、と溜め息を溢した。
鈍感ラバーズ
(秋ちゃん、やっぱり目合わせてくれない!)
(ああ、やっぱり気づいてない)