きっと、それは恋。-after-
『きっと、それは恋。』続編
『妹さん、お兄さんを、あたしに下さい』
なまえに言われた台詞が、頭の中でぐるぐる回る。
あれから一ヶ月……今や、なまえとお兄ちゃんは、"恋人"になってしまった。
始まりはいわゆる一目惚れというヤツで、なまえの激しいアタックが開始され、私の親友だからと気を許していたお兄ちゃんは、意外とあっさり落ちてしまった。
親友と兄が結ばれる、別に嬉しくない訳じゃない。
幸せそうな二人を見ていると、私まで幸せになるくらい。
でも、何故か、ちくりと痛みも伴う。
なんでだろう。
嬉しいのに、嬉しくない。
「春奈、部活いこ?」
「あ、うん…」
あれ以来、なまえはサッカー部のマネージャーとして入部した。
なまえと一緒にボールを磨いたり、応援したりするのは楽しい。
だけど、お兄ちゃんと話してるのを見ると、辛い。
「…お兄ちゃんに取られちゃったからかなあ」
ぽつ。呟いた。
……あ、そっか。わかった。
「ん?何が?」
「…ううん、何でもないよ」
取られちゃったから、なんだ。
大好きななまえが、お兄ちゃんに先に取られちゃったからだ。
「…私、なまえが好きなのね」
親友、だからじゃなくて。
女として、なまえが好きだったのね。
「ね、いこ、春奈」
差し出された手。
思わず、握り返して、引っ張って。
ぎゅっと抱き締めた。
「わっ、と…春奈?」
「………よ」
「え?」
ぎゅ。
「好きよ、なまえ」
ぎゅう。
「ふふ、どしたの?あたしも春奈、大好きだよ」
笑いながら抱き締め返すなまえ。
かわいい。
……かわいい、けど。
お兄ちゃんと会う前の笑い方とは、少しだけ違うの。
「……私だけのなまえだったのに」
「ん?もしかして、春奈、鬼道さんに妬いてたの?」
「…嫌だった…?」
ああ、気付かれちゃった。
嫌がられるかと思ったけど、なまえの顔を見ると、何故か、笑顔。
「ううん、嬉しいよ。そっかー妬いてたんだあ?そういえばあたし、最近鬼道さんとばっかり話してたもんね」
笑いながら、また抱き締め返して、ごめんねって。
「気付かなくって、ごめんね?」
「…うん」
「これからは、あ、これからも、かな、もっとお話しようね」
「…うん」
「あたしも、もっと春奈と仲良くいたいし」
「…うん…」
よしよし、なんて私の頭を撫でるなまえ。
これも、以前のそれとは、少し違う。
だけど、嬉しくて、安らぐことは確かで。
ああ、瞳が滲んでしまいそう。
「…ありがとう、なまえ」
涙を堪えてそう言うと、一瞬だけ、以前と同じ顔をして、けれど直ぐにまた、お兄ちゃんのなまえに戻った。
「…いこっか」
「ん、いこっか」
お兄ちゃんのなまえが、優しく微笑んで、私の手を引いて歩き出した。
「…取り返してみせるわ、お兄ちゃん」
だって、なまえは私のなまえなんだもの。
お兄ちゃんにも、渡さないんだから。
あの時のなまえみたいに、目の前で宣言してあげる。
覚悟、しててよね。
きっと、それは恋。-after-
(略奪愛、なんて、燃えると思わない?)