相愛片想い
「倉間!一緒にお昼食べよ!」
にこにこと笑うみょうじが、俺の目の前に突き出したのは、弁当箱。
それに目をやり、怪訝に眉をしかめる。
視線の先にあるみょうじの手元で、可愛らしい花柄の巾着から半身を出したそれは、お揃いの花柄をしていた。
……いや、思考するべきはそこではない。
問題は、その弁当箱が、何故かふたつあるという点だ。
「別にいいけど、お前なんで二つも弁当持ってんの」
そんなに食うのかよ、と溢すと、みょうじは頬を膨らませて、子供っぽく怒る。
「違うもん、いっこは倉間の分だもん!」
「…は?」
俺の分、って…なんだそれ。
「倉間、いつも購買のパン食べてるでしょ?だから、作ってきたんだけど…」
「……お前が作ったのか?」
「うん、私、たまに自分で作るから。あ、でもね、今日のは倉間のためにいつもより頑張ったよ!」
先程とは打って変わって、満面の笑みを浮かべるみょうじ。
その笑顔に、何故だか無性に恥ずかしくなり、顔ごと視線をそらす。
その反応に不安を覚えたのか、みょうじは首を傾げて此方を覗き込んできた。
「どしたの倉間?やっぱり…迷惑だった?」
「…っいや、別に…」
泣きそうな顔で尋ねるみょうじに、少し戸惑う。
迷惑じゃねえよ。寧ろ嬉しいんだよ。
素直にそう言えたら良いのだが、ひねくれた性格がそれを阻む。
しかし、流石に傷付けるような事は言いたくない。が、素直に伝えるのも恥ずかしい。
何と言おうかと頭を回転させ、搾り出した言葉は、なんとも子供っぽい言い訳だった。
「…しょうがねえから、食べてやるよ…っ」
「ほんと!?良かったあ!」
単純な俺の言葉に、ありがとう、と、また笑顔を見せるみょうじ。
嬉しそうにしやがって。普通お礼を言うのは、俺の方だろ。
飛び跳ねそうなくらい喜ぶみょうじを促し、席を立つ。
教室を出る直前、購買へ行こうとした浜野に、わざとらしく耳打ちされた。
「さっさと告っちゃえばいいのに」
「…うるせーよ」
けらけら笑う浜野の脇腹を小突いて、屋上へと急かすみょうじの後を追った。
相愛片想い
(今はまだ、この距離が丁度いい)