2:浅い眠り

私はずっと、
ホムンクルスなんて実在しないと思っていた。







「ふふ…錬金術師の娘だけあって物知りね」

強靭な爪。
確かに感じる殺気に嫌な汗が背筋を流れる。
相手を見据えたまま必死で背中の後ろでひとさし指を動かし、確実に円陣を描いていく。


「ごめんなさいね、悪いけど見られたからには…」

その言葉とほぼ同時だった。
勢いよく床に手をついて、錬成の光に包まれた。


「!!」

どさりと倒れ込む音が室内に響く。




練成した大きな床材の塊は女の人の胴体を貫いた。
静寂を取り戻した室内で一人、目の前の惨劇に呆然とする。

「…っ…」

――殺してしまった。
小さく震えながらそう思った瞬間、


「思い切りのいいお嬢さんね…」

「!」

そんな声が聞こえ、彼女はパキパキと音を立てて再生していった。
その能力に目の前の相手との力の差を悟る。
いや、力量の差というよりは存在としての差異だ。


「貴女、殺すには惜しい腕だわ。…どう?此処で死にたい?それとも、私と来る…?」

「…え」

両親を殺した犯人と?

でも、断れば命はない。





私は、




「……っ」

まだ死ねない。

だって、




『彼』と約束したのだから。













「…毎回の如くよく寝るねぇ?」

「…う…ん…」

その日も、エンヴィーは昼間まで寝ている未登録を起こしにきていた。

「こいつ五感機能してんのか?気付けよ」

信じられないと呆れる侵入者をよそに眠り続ける未登録。
未だ夢の中のようだ。


「…それとも誘ってんの?」

都合のいい解釈をしてベッドに上がると、未登録の上に馬乗りになるエンヴィー。

エンヴィーの髪の毛がぱさりと未登録の顔に垂れて。

「っ…ん…」

未登録は擽ったさに薄目を開け目の前の房を掴んだ。



「…?…何、これ…」

謎の物体を握ったまま見上げると、暗紫色の瞳と目が合った―――――。

「っぎゃああぁッ!?ご、ごめんなさい!!」

「〜っ…ほんといい発声してるよ…」

エンヴィーは耳の痛みに眉を寄せる。

「…えっ!?な…なんで…!?」

だって昨日寝る前確かに…。
パニックになっている未登録に彼が口を開く。


「ん?ああ、鍵ならちゃんと閉まってたよ?」

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