5:顔-後編- 上の方は、 やたら風が強かった。 「じ、自分で帰れる…」 一旦屋上に下ろしたら、すぐに俺の肩を押し返してきた。 此処からアジトまで、人間の足で一時間くらい。 なんだかもう会話するのも面倒で。 有無を言わさずもう一度抱き抱えると、困ったように顔を赤らめて俯いた。 確か、前にもこんな事。 「照れてんの?」 「違…っ」 そんな真っ赤になって否定してもバレバレだし。 「…お前は全然変わんないね」 移動しながらそう呟くと、少し意外そうな目を向けてきた。 「でも前より重くなった」 こいつの体重なんて重さの内に入んないけど。 「…当たり前でしょ」 また赤くなる。 すぐ真に受けるとこも全然変わんない。 なんか笑える。 気づけば、瞬きもせずにあいつがこちらを見上げていた。 俺は今どんな顔をしてるのか。 ふとそう思ったけど。 あいつの目に映るそれを覗く事無く、真っすぐ帰路を辿っていった。 アジトに着いて思い出したように見下ろすと、 すっかり静かになったガキはその瞳を閉じていた。 いい気なもんだ。 その辺に投げといても良かったけど、何せ昨日の俺は相当おかしかったから、 わざわざガキの部屋まで運び入れてベッドに寝かせたのだった。 眠ったままのあいつを横目にベッドに腰掛けると、僅かに聞こえてくる規則的な寝息。 「………」 怯えていたのも、 笑っていたのもこの顔。 人間は脆い。 細い首筋に指を滑らせた。 その息を確かめるみたいに。 何がしたいのか自分でも分からなくて、その目が開かない内に部屋を出た。 答えの出ない問いがあると苛々するものだ。 何度思い返しても分からない。 「そういえばエンヴィー、貴方昨日街に行かなかった?」 いよいよ仕事に向かおうとしていたら、ラストがそう尋ねてきた。 「行ったけど、なんで?」 「大量の死体が見つかって騒ぎになってる」 「へぇ…それは穏やかじゃないねぇ」 「エンヴィー」 「あの…エンヴィー」 窘めるようにラストが呼んだ、それと被さるように聴こえた声。 振り返ると、あいつが自室のぼろいドアから顔を出していて。 [page select] [目次] site top▲ |