4:顔-前編-

始まって早々、レストランの中はもう大騒ぎだった。


『誕生日パーティーを開きたい。』

俺達の急な頼みを店側は快く引き受けてくれた。
昨晩から準備に掛かり、今朝は早くから慌しく会場を整えた。
お客には未登録が来たら後は適当に楽しんでくれって言ってあった。
パーティーらしい、いい雰囲気だ。

一人で勝手にそう納得して、俺はいまいちついてこれていない未登録に声を掛けた。
何も不思議なんてないみたいに笑ってみせる。


「よう未登録、誕生日おめでとな!」

「…でも…エド、」

「言うな!お前の誕生日くらいちゃんと知ってる!」

びしっと右手を前に出して制した。
大きめの声を出したつもりだったけど、
周りの音に埋もれて、やっと未登録に届くほどだった。
一方、歩み寄ってきた鎧姿の弟だけは、人込みの中でもしっかり見えた。


「毎年、お前の家で誕生日会やったよな。アルもウィンリィもみんなで。…でもあの年だけは祝ってやれなかった」

「……。それで…」

それでパーティーを?
そう言おうとした未登録の言葉が横から聴こえた歌声に遮られた。
楽しげに歌い踊る一人の客。
既に出来上がってるその男が歌うのは、調子外れな誕生日の歌。

俺とアルは顔を見合わせた。




「あの日、だったんだろ?」

「!」

未登録は驚いたようにこちらを向き直す。
その顔は引き攣って、瞳が頼りなく霞んでいく。





その時、周りの声が一瞬ざわっと集まった。
人々の視線の先にはコックの運ぶ真っ白な誕生日ケーキ。
蝋燭の火が瞬くように揺れる。

やがてそれは未登録の前まで運ばれてきた。


「ほら、未登録」

「……」

「未登録、消して。未登録の為のケーキなんだから」


「私、二人に此処までしてもらう資格ない…」

「何言ってるんだよ。未登録は僕達の…」

「でも…」

「うるせぇ、つべこべ言うなっ」

突然ぴしゃりと言うと、未登録は目を瞬いて沈黙した。
未登録だけでなく、蝋燭を吹き消すのを待っていた周りの人間も完全に硬直した。

いち早くその状態から抜け出したのはアルだ。


「…未登録、今の未登録のことよく知らないけど、それでも僕等の未登録に変わりはないよ」

「……っ…」

「いいか未登録、よく聞け。お前がどんな立場にいても、何を隠してたとしても俺達は構わないんだ。そうだろ?」


「この先何があっても関係ねぇ。俺達はお前の味方だ。それはずっと変わらねぇから…だからそんな顔すんな」

未登録は呆然と俺の顔を見ていたかと思うと、
より短くなった蝋燭に宿る、吸い込まれそうな光に視線を落とした。




「分かったか?そのこと絶対忘れんな。もし忘れたら、あー…どうすっかな。あ、忘れたらぶっ飛ばす!!」


「兄さん…女の子にそれはないよ」

「なんだよ、俺は真面目に…って!!うおッ!?」

俺は驚いて奇声を上げた。
両手で顔を覆うでもなく、未登録が突っ立って泣いてたから。


「わわ!未登録…!に、兄さんが凄い目で睨むからだよ!?」

「おっ俺のせいかよ!」

「違…びっくりしただけ…」

未登録は否定しながらも、目の前で揺らめき続ける蝋燭を見つめたかと思うと本格的に泣き出してしまった。
俺とアルはハンカチ!いやティッシュ!とか言いながらおろおろと部屋の中を駆け回って。

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