4:顔-前編-



「うん、そろそろいいかな。…未登録、行こっか」

不意にアルがそう言った。
未登録が考え事をしている間に二人は図書館の近くまで来ていたが、
何を思ったのかアルは未登録の手を取るなり来た道を引き返していく。

「ア、アル?行くって…」

未登録は疑問に思うと同時に、ふと嫌な想像をした。
まさかこのアルは偽者で、彼が化けているとか…。


「アル…」

「心配しないで。今日はね、僕等のお気に入りのレストランに未登録を招待したいんだ」

そう言われたら、未登録はもう何も言えなかった。
自分の手を引くアルはとても楽しそうで、見ているだけでこちらも嬉しくなった。




アルについていくと、やがて待ち合わせ場所の交差点を越え、その先の大通りに出た。
其処を左に曲がって五分ほど歩くと、年期の入った茶色い建物が見えた。
宿屋の大きな看板が掛かっている。


「此処、もしかして二人が泊まってる…?」

「うん。えーと裏口から入るから、こっち」

促されるまま門を潜り、ぐるりと建物の裏に回る。
其処には可愛らしい庭があった。
そして宿舎の壁際の地面には床が張られ、屋根から延びた日よけの下が小さなカフェテラスになっていた。

まだ朝の内だからだろうか、こんなにも天気がいいのに誰もいない。



「さぁ未登録、入って」

見れば白いテーブルと椅子が並んだその奥に、小さな赤いドアがあった。
中のレストランに続く扉だ。
躊躇いながらも木製の床に上がって、テーブルの間をすり抜ける。
ドアノブに手を掛け、一度アルの方を振り返った。アルがこくりと頷く。




未登録は扉を開いた。








―――パンッ!!パパンッ!!


「ッ!?」

続けざまに何かが弾けるような音。
そして色とりどりのリボンが、紙吹雪が舞って視界を埋め尽くす。


「誕生日おめでとう!!」

「おめでとう!」

ざわめきのような拍手と共にそんな声が響いた。
それどころか、軽やかな楽器の演奏まで聴こえ始めて。
それに気を取られていると、何処からか小さな子供達が駆け寄ってきて、次々に色違いのブーケを渡してくる。
その子達も口々に「お姉ちゃんおめでとう」と言うのだ。



「……た…誕生日?」

未登録は全く思考が働かなかった。
辺りを見回すと沢山のご馳走がテーブルに並び、
壁に飾られた横断幕には『HAPPY BIRTHDAY』の文字。


「アル、これ…」

「うん。誕生日パーティーだよ」

誰のと聞かずとも、勿論未登録のだろう。
軽快な演奏はまだ続いていて、気づけばレストランの従業員がグラスを乗せた盆を持って歩き始め、
宿泊客らしき人々はまだ昼も回らないのに酒を飲み交わして陽気にダンスを踊っていた。

溢れ返らんばかりの活気にあっけに取られていると、軽く肩を叩かれて。




振り向くと其処にはエドの姿があった。

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