3:こころ

邪魔だから殺した、それだけだ。
今更何を言い出すのかと疑問に思ったエンヴィーだが、不意に思い出したように笑った。


そう。
睨み上げてくるこの少女は、自分とは違う存在なのだと。


「ああ〜はいはい。人間の道徳観って奴ね。なんでって今までそうしてきたからさ。
こいつにしろ鋼のおチビさんにしろ、大人しくしてれば何もしないんだけどね」

言いながら男を蹴飛ばす。
未登録から彼の顔が見えなくなる。

「この人何もしてないわ。エドとアルだって、ただ真実を…」

「――…真実?笑わせないでよ」

冷め切った声が未登録の言葉を遮る。

「自分達の過去を払拭するのに必死なだけだろ?そもそも死人を生き返らせようなんてとんだ馬鹿だよ。
人間ふぜいが人体錬成をやろうなんてね。…尤も、人間だからこそ禁忌を犯したがるんだろうけど?」

「…二人はお母さんに会いたかっただけよ」

「下らない、虫酸が走るね」



何処までも、冷たく人間を見下す瞳。



怖くはなかった。
ただ、未登録は哀しかった。

今もこの目は、闇を映して血に濡れるだけで。


「あの二人を…どうするの……人柱ってなんなの」

「またそれ?それなら答える必要ないよ」

「どうして」


「まだ分からないの?…お前も人柱候補だからだよ」


いつかお前は身を持って知るんだと、そう言って彼はまた口元を歪めて笑った。


「私、貴方達の好きになんてさせないから」

確かに聞こえていた筈だが、エンヴィーは未登録のその言葉に興味も反応も示さずその身を翻して。
そして点々と、乾き切った地面に微かに血の足跡を残していった。






囁かれた未来は確かに怖くて。
だけどその時はとにかく苦しくて、
未登録は自分が人間である事実に息が詰まる気がした。





いつもそう。

その瞳に、
人外の者の色を見る。



埋めようのない溝が其処にある気がして、
訳も分からず心が痛くて。





背中を見ると寂しくて。











ああ、私は。






「………馬鹿ね…」

未登録は下を向き、傾く太陽から顔を隠した。
いつからか表情を失ったその顔を。






気づいてしまったのは、

彼との確かな距離を感じて、泣きたいくらい哀しかったのだということ。



「……ほんと、馬鹿……」



そう呟いた未登録の傍らには、まだ真新しい血がどす黒く滴り落ちていた。

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