2:hide-and-seek

「なあ、なんか言ってくれよ」

エドは困惑したように言葉を続ける。
未登録は固く拳を握り締めた。



そうだ、今ならまだ間に合う。

逃げてしまえばいい。



今すぐ、

この手を振り解いて。






未登録は今更否定するように頭を振って、エドの手から逃れようとした。



「待ってくれ!お前…」


「…っ放して!!」




紡がれた声に、
未登録の表情にエドの顔が歪む。


そしてエドは逃げようとした未登録の身体を引き寄せた。









「……っ…馬鹿ヤロ…ッ」


未登録は目を開いて動きを止める。



少年の声は震えていた。

感情を押し殺すように。




「……っ…」

いけないと思うのに、どうにもならない。





強まる腕。



感触の違う、

二本の。






「…っ……エド…ッ…」




部屋に閉じ籠って、

誰の顔も見なければ孤独は忘れられただろうか。


温かさを求める自分に気づかずにさえいられたら。



この空が何処かへ、


遥か先へ、
続いていることを知らずにいたなら。

















「未登録!おい未登録起きろよっ」




「……、…エド?」

緩く肩を揺さぶりながら覗き込んでくる少年。


太陽は呆気なく緑青の床に伏し、
幼い少女を匿っていた花の籠は色を失ってすっかり黒くなっていた。



未登録はかくれんぼの途中で眠ってしまったのだ。


「お前こんなとこに居たのかよ。親父さん達も心配してたぜ」


「……。ずっと探してくれてたの?」


「当たり前だろ」



「…ありがとう」

未登録はほっとしたように微笑んだ。
エドは暢気に笑ってんじゃねぇよ、と外方を向いて。



「ほら、帰るぞ」

差し出された右手。
優しい熱が二人を繋ぐ。





見上げれば、耳まで真っ赤になった少年。

振り向けば花園。





遠ざかる、

甘い香り。








寂しくて仕方なかった。

かくれんぼは、“絶対に見つからない場所”には隠れないものだから。



自ら棺に入り復活を待つような、そんな遊戯。
ほんとは見つけて欲しくて。



きっと、

子供達は名前を呼ばれて初めて、


自分の存在を取り戻すのだろう。













ただ泣きじゃくっている少女。

決して広くはない少年の肩に置かれた少女の掌が、
固く蕾を閉じながら今も戸惑うように震えている。

彼女の身体を包む兄の背中を、アルフォンスは言葉なく見つめていた。







誰とも会わない覚悟だった。
助けて欲しいなんて言うつもりはなかった。

誰も巻き込みたくなかった。



助けてほしいと、
言うつもりはなかった。


だけど本当は。


ずっと、
扉を叩いて叫びたかった。








此処に居ると。







呼ばれた自分の名。
合わせた瞳。


鮮烈な現実に、
やっぱり涙は止まらなかった。

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