7:残酷な造り

未登録は彼の肩から瞳へ目線を上げる。
エンヴィーは変わらずエド達の様子を窺っていた。



目前に浮かぶ、肩先の紅。

どうしてだろう。
その下の肌がもう滑らかに整っていると知りながら。


確かめたい、と。



喉の奥から緊張と共に湧き上がる衝動。


見たいような、見たくないような、
不可思議な感覚に囚われて。



未登録は奇妙なくらい逸る心臓に、ゆっくりと現実から遊離した。




震えることはなく、
でも壊れ物に触れるみたいに、


そっと、

手を伸ばした。







「何?」


闇を鋭く横切ったのは、妙に落ち着いた声色だった。

我に返り、未登録は行き場のない手を引っ込める。
上から不審げに見つめられ、絡まる視線に息が止まりそうだった。


「…この身体が珍しい?」

すっと細まり、弧を描く瞳。
男に向けたものに似た冷たい眼差しだった。
そんなつもりじゃない、と言いたかったけど言葉にはならなくて。


「…痛くないの?」

傷がなくなっているのだ。
痛みがある筈がない。

エンヴィーの答えはひとつだろうに未登録はそんなことを尋ねた。




彼は一瞬変な顔をして、
不服そうに当たり前だろと返してきた。






拭われることのない血。

簡単に再生する器が彼の感性を鈍くしている気がして。




なんだか、


哀しくて。






エンヴィーの肩越しで小さくなる少年達の映像。

一方的な形ではあったけど二人に会えたのに。
未登録はそれを惜しむことすら忘れていた。






にわかに縮んだかと思われた兄弟と少女の距離はまた広がった。

未登録が再び兄弟と顔を合わせることになるのは、
まだ、何年も先の話。

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