7:残酷な造り

「はぁ、はぁ…」





いない…。



数百メートルほど走っただろうか。

未登録は走るのをやめ、男の姿を捜した。
辺りは崩れかけたような廃墟ばかりだ。
今の状況が現実味を帯びないのは今更だが、自分が誰かを追うなんて殊更に違和感がある。
耳に届く自分の息遣いと手足はピントが合わずにぼやけているようだった。


本当に変だ、と未登録は思う。
逃げてしまいたいのは自分の方なのに。


今頃、彼はあの男達をその手に掛けているだろう。
いつものように互いの死を省みず薄笑いを浮かべて…。

想像すると、なんとも気が滅入る思いがした。


「………」



『これでも一応  
痛覚あるんだよね』



未登録はエンヴィーの言葉が頭から離れなかった。
この何カ月かで、彼等が感情を持っていると知った。
人間と同じように感情があると。



なのにどうして。


傷つけられてどうして笑えるのか、

それが未登録には分からなかった。







鉄材やパイプなどの廃棄物がごろごろしている乾いた白い地面。
未登録は足場の悪い道に態勢を崩しながらも歩みを進めた。


真昼とは思えない耳鳴りのするような静けさ。
錆びた金属の異臭と砂塵。
青い空だけが晴れ晴れとして、遥か上空を白い雲と鳥が漂っていた。





その時。
じゃりっと地面を踏みしめる音がした。




はっとそちらを向いた瞬間、

視界に入った人影。



「あッ!う゛う…っ!?」

突如未登録の首を捕えた頑強な手。
その人物こそが未登録が捜していた男だった。


「…は…っ…お前は人間なのか!?」

「っ…!」

恐怖心からか男は酷く興奮した様子で、持ち上げた未登録の身体を揺さぶる。


「言え!!あいつ…あいつは一体何なんだ!!」

「……言ったら、貴方と私の…っ首が飛ぶだけよ…」

「!このガキッ!!」

怒りと恐怖に震えながら男は未登録の顎に冷たい銃をつきつけた。




「どうしたらあの化け物を殺れる!?さっさと吐かねぇとぶっ殺すぞ…ッ!!」






「………化け物…?」





ふと頭の片隅に





看病してくれた
彼の姿が浮かんだ。








――ドスッ…!!


「ぐああああぁッ!!」

次の瞬間、突然男は断末魔のような叫びを上げた。

未登録には何が起こっているのか分からなかったが、下を見ると男の身体を手刀が貫いていた。

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