6:瞳に映るもの

現地入りしてすぐにエンヴィーは情報収集に回った。
そして昼時になり未登録に疲れが出始めた頃、二人は街の中心部のレストランに立ち寄った。


ターゲットの居場所は未だ掴めていない。
近隣にいることは確からしいが。
人手不足によるムラのある監視が、この様な時にその問題点を露呈してしまうようだ。


「人間は不自由だね。もう一周りしてくるからお前は此処で食っときな。…逃げるなよ?」

形を変えた人物の声もまた、全くの別人。
未登録は遠ざかるエンヴィーの背中を見ながら、頭の中であれこれホムンクルスの成り立ちと錬成について考えを巡らせていた。



やがて料理が運ばれてくると、他には目をやらず、一人黙々とそれを口に運ぶ。
今の未登録には、逃げるという考えは到底浮かばないらしかった。





がやがやと人の声。
真昼の空気。
沢山の人に囲まれ、その笑顔を見ているだけで何故か心が落ち着く。

でもそれは同時に寂しくもある。
自分だけ一人違う世界にいるようで。



「……。」

美味しくない。


あの日から、
口に運ぶ料理はなんの味もしなくなってしまった。







「誰が豆粒だぁあ!!」

「!!」

昼食の中頃、すぐ後ろから聞こえた声に未登録は食事の手を止めた。


「俺と張り合おうってのか小僧」

「へっ!やってやろうじゃねぇか!!」





エド。
後ろのテーブルにエドが居る。

出くわしてもなんら不思議はないのだ。
ラストが掴んだ情報は、男達とエドの密会を示唆していたのだから。


「ちょっと兄さん!」

続けて聞こえてきた懐かしい声に未登録の心臓が高鳴る。


ずっと心配していた幼馴染みの少年の変わらぬ声。




顔が見たい。
だけどこの距離ではこちらの顔を見られるかもしれない。

未登録は哀しみに暮れた。
どんなに心躍らせても面と向かっての再会などできはしない。
今の自分には訊かれては困ることが多すぎる。
不用意に接触すればエド達の身も危うくなるかもしれない。



外部の人々とは話せない。



思い知る。



もう戻れないこと。



「ああもう、兄さんてば、約束の時間過ぎちゃうよ!」

「おらぁぁあッ!!」


ガシャーンッ!!

エドによってテーブルに叩きつけられた男の機械鎧。



その一部が空中で散開した。


「危ないっ!!」

「え…」


振動する鼓膜。

無数の金属片は雨のように鎧の身体に落ちた後、四方八方に散らばった。






「…っ…痛…」

「君、大丈夫!?」

目を開けると、未登録の上に大きな鎧が被さっていた。


「……」

「怪我はない!?」


「……あ……」

大きな身体に不似合いな幼い声。



…この人が、アルだったんだ。



「…あれ?君…」

顔を凝視してくるアルに、未登録はびくりと震えた。




逃げなくちゃ。



「あっ!?待って…!」

未登録はすぐさま立ち上がると、人の波の合間を縫って店の外へ走り去った。
その場に残されたアルは、呆然と店の入口を見つめた。


「行っちゃった…」


「アル!?あの子大丈夫だったのか?」

人混みを掻き分け、アルのそばに駆け寄るエド。


「兄さん、あの子…」

「な、なんだよ。何かあったのか?」

「未登録に、すごく似てたんだ」

「……未登録?…あいつがこんなとこにいるわけないだろ」


「うん、でも」



「…人違いだよ」

エドは絶え間なく人が行きかう店の出口を見つめた。




その瞳には、
複雑な色が映し出されていた。

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