6:待罪-後編-

大佐によれば、エド達は暫く南部に滞在していたらしい。

二人はまだ自分に会おうとしてくれるのだろうか。
エドとアルにはもう会えない。
会う事はない。そう思っていたけど。


…じたばたしても仕方ない。

こちらからは話せなくても、エドとアルには言いたい事があるのかもしれない。
会って二人の言葉を受け止める責任はあるように思えた。





後日未登録は再びエドとアルに会ったが、
その間に初日のような尋問を受ける事はなかった。
大佐をはじめ、軍部の対応は穏やかだった。

そして、組織が動く気配はなかった。



彼はどうなったのか。
今すぐ知りたいのに術がない。


それから、煙の中で見た彼女の瞳。




不安になる。




もう帰れないのかもしれないと。










「よう。思ったより元気そうじゃん」

部屋のドアをくぐるなり、エドは落ち着いた様子で言った。
あの夜の別れ方が嘘のようだ。
続いて姿を現したアルは、静かに扉を閉めてこちらを窺う。

未登録の心は落ち着いていた。
ただ、申し訳ない気持ちだけは行き場もなく段々と膨らみ、部屋の中の空気を重く感じさせた。


エドは、暫く黙ったままだった。
荷物を置いて正面の椅子に座り込むと、ひとときも未登録から目を離さなかった。
未登録は二人の言葉を待つように見つめていたが、いつまで経ってもその時は訪れない。

仕方なく会いに来ただけで、話したくはないのだろうか。

そうさせているのは自分だと思うとまた申し訳なくなって、未登録は目線を彷徨わせた。
室内に、時計の秒針の音だけが響いていた。


「大佐に見つかったんだって?」

不意に話し掛けられて顔を上げる。
半眼のエドに頷いてみせると、彼は盛大に溜息を吐いた。

「ったくお前なぁ。もうちょっと気をつけろよな。軍に目つけられてたの知ってたんだろ?」

って言っても大佐相手じゃ仕方ないか、と今度は頭を掻いて。
器用に椅子を傾けて壁に背中を預ける。

「これからどうするんだよ」

戻ろうにも見張られてんだろ、とエドは戸口を指差して小声で言った。

「…う、うん。実は私もそれで困ってて」

答えつつ、違和感を覚える。
なんだろう、この拍子抜けする感じ。

真意を掴めずにエドの顔を盗み見ようとしたら、ばっちり真正面で目が合った。


「忘れたとは言わせねぇぞ」

「!」



この先、何があっても―――?


「え、だって…」

エドが一番よく分かっている筈だ。

自分のエゴで二人を置いて逃げた。
幾らなんでも、あれは…。

「あれで絶交したつもりか。甘い!」

びしっと目の前で指差されて思わず寄り目になる。

「二度は言わねぇ」

曇りのない金色の瞳が未登録を捉えた。
動向を見守っていたアルも、いつものようにゆっくりと頷く。
未登録は呆然とした表情になって二人を見つめた後、ほんの少し俯いた。




――見くびらない方がいい。






「…エドは、」

ちょっと見ない間に、以前より大人びた気がする。

未登録は視線を落としたまま、少し口元に微笑みを浮かべる。

そうだ。誕生日会を開いてくれた日。
笑っていて欲しいと、言ってくれたんだ。二人は。


「…エドは、少し背伸びたね」

今度は目を見て、そのままにこりと笑った。
エドは一瞬きょとんとしたが、すぐにそれは違うと言った。

「少しじゃねぇ!すっげー伸びてるっつーの!!」

「どう見てもほんのちょっとじゃないか」

透かさずアルが突っ込みを入れる。

「お前はいっつも一緒に居るからこの素晴らしい変化が分かんねぇんだよ!」

「うん、だから注視しないと分かんないくらいの変化なんだろ」

「ちがーう!!」

二人のやり取りを見ながら未登録は笑みをこぼした。



エドとアルはこんな自分すら許す。
大丈夫だと背中を押してくれる。


だから未登録は、いつだってこの優しさに敵わずに破顔した。


今なら、言えるかもしれない。
今度は黙って居なくなったりしない。
囁く様に声をひそめて未登録は言う。

「…私、あの人のところに帰るよ」

「もう止めねぇよ」

少しぶっきらぼうにエドは笑った。

このまま、昔のように一緒に居られたらどんなにいいか。
そうエドが考えない訳ではない。


辛くない訳じゃない。
だけど未登録と同じく、自分の心はもう決まっている。
心配で堪らなくても、未登録が、強く望むなら。


「あ。そういや、お前の味方だってこと忘れたらぶっ飛ばすって言ったっけなぁ」

「兄さん〜」

にやりと笑うエドに、アルが呆れた声を出す。
それでもエドの目は何処までも優しくて、ぶっ飛ばしてくれてもいいよと未登録もおどけてみせた。


「しょうがねぇから手作りシチューで手を打ってやるよ」

変わらず太陽みたいに笑うエドに、未登録も微笑んだ。

二人に大きな感謝と愛しさを込めて。

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