6:待罪-後編-




連れ立って部屋の外へ出たロイとホークアイは、
一度だけ目を合わせ、空き家の古びた廊下を進んだ。


「どう思う」

「…脅されてはいないと言っていましたが、そうは思えませんでした」

「そうか」

「よろしいのですか?」

ぽつりとホークアイは言った。
ロイはすぐには答えない。
ホークアイが何を言わんとしているかは分かっていた。

漸く掴んだ手掛かりから、全てを明らかにしなくていいのか。

ロイは短く息を吐く。

「彼女は、グレーゾーンど真ん中、というところだな」

探し求めていた少女と直接対話する機会を得たが、今すぐ彼女をどうこうする事は出来ないとロイは結論づけた。



彼女はヒューズの一件については知らなかった。
だが確かに、この国で暗躍する者達を知っている。
何度も接点を持っている。

脅されて口を閉ざしていると中尉が思うのも無理はない。

過去の事件から言えば彼女は確実に被害者だろう。
我々に助けを求めたり、自ら話をしてもおかしくはないのに、その素振りはない。

そして質問に答えながらも、一貫して守秘の意志を強く感じた。

考えながら喋っている。
そういう印象だ。
おそらく重要な事柄については、何を訊いても彼女は答えなかっただろう。

では、組織の一員である疑いはどうなるか。
我々に言えない事があり、よからぬ者と行動を共にしていた。
彼女はそれを自分で選んだと言う。
それでも、完全にあちら側の人間であるとは思い難かった。

彼女の態度や言動が、そう思わせる。

例の賢者の石絡みの事件一つ取ってもそうだ。
子供の証言にあった女が彼女だとすれば、彼女は組織のやり方に反発、もしくは否定的な姿勢を取ったと言える。
加えて、独断で子供を逃がした為に、我々に情報を齎している。

…そんな者を組織が良しとするか?

出会った瞬間にこそ問い詰めるような真似をしたが、組織に対する未登録の立ち位置は実に不安定であり、
彼女の嘘や黙秘を破ろうものなら、一段とその身は危ぶまれる事になるだろう。

組織が彼女を手放さないのは、機密漏洩の防止絡みか、あるいはよほどの利用価値があるのか。
そうでなければ、始末されていてもおかしくはない。
現に彼女は過去に一度排除され掛かっている。


ロイ達の未登録に対する監視は、何も逃亡を防ぐ為だけではなく、彼女自身を護る為でもあった。

錬金術師の潜伏していた場所で未登録と接した場面も、誰に見られていても不思議ではない。
その危険を冒してでも確保したのだ。

どうあっても護り通す。
手は出させないという軍部の緊張感は、威圧感として未登録に伝わっていたふしもあった。
とはいえ、少人数のマスタング組の現状では、常に一人以上の見張り兼護衛を彼女につける事も徹底は難しい。


…よもや例の死刑囚とまとめて保護するという訳にもいくまい。

そして今後その役を買って出るのは、あの兄弟しかないのは分かり切っている。
前回の事もある。今度こそはどうあっても護ろうとするだろう。

「うまく説得して協力して貰えればいいんだがね。難しいかもしれん」

「彼女なら、じっくりと話せば十分に理解して貰えそうですが」

「…どうかな」

自分で選んだと言っていたが、一体これまでの彼女に、己の意志で選べた事がどれだけあったのか。

その上での決意だとすれば。


ロイは肩の力を抜きながら笑みを浮かべる。
一瞬の強い少女の眼差しと、見慣れた少年の瞳を重ねながら。

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