4:空に徒花






馴染んだ色の電灯の下。

ぱらりと紙を捲っては頭の中に本の内容が入ってきていない気がしてページを戻した。

部屋の外で物音がすると、はっと振り返って。
誰も居ない事に落胆しながら目の前の書籍に視線を戻す。
暫くそうやっていつものように本を読んでいたけれど、結局はちっとも進まないまま閉じてしまった。

「…あっ」

諦めて積み上げた書籍を移動させようとした刹那、本の角が読書用のスタンドに掠って。
それは机から真っ逆さまに床まで落ちていき、止める間もなくがしゃんと音を立てた。

慌てて駆け寄って確かめると、乳白色のシェードが割れて大きく欠けてしまっていた。

未登録は仕方なく無残に散らばった硝子片を集め始める。
爪の先程の小さな欠片に触れた時、不意にその鋭い側面が肌の上を滑った。

「っ…」

指先に血が膨らんで、室内の灯りを映し込む。
ぼんやりと、集めた硝子の中から一番大きなものを手に取った。
光沢質の柔らかな色彩が、電灯に照らされて揺らめく。


「……」


たとえば、この硝子が。

この鋭利な硝子が肌を分けて血が出てきてしまっても。
その血がいち早く止まって、
すぐに傷が塞がればいいのに。







…事実、人間。

変えようのない事に何を思っても仕方がないけど。

石の力で傷を塞いだ時には、しがみついてでも人間でいたい心地がしていたのに。


未登録は自分の腕の表面に触れて。
血管の浮く人の肌を撫でるようにゆっくりと指を滑らせた。

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