10:帰る場所-後編-





「未登録…?」

何、なんの謝罪。
分からないまま身体を抱え直すと、その腕からは完全に力が失われていた。



「……っ」

何も変わっていないかもしれない。
また苦しめるかもしれないのに、まだ欲している。

模造太陽に造られた人間も、人間に似て愚かしいほど欲深い。



冷えた唇が紫色に変色していて。
抱き上げて立ち上がると、萎垂れた花の様に重力に任される手足指先。
だけどまだ、温かくて。


闇の中に息づくその温度が、
この呼吸が、


こんなにも俺は。













「お嬢さんの具合はどう?」


後ろから追いついてきたラストが言った。
飛躍する足音が重なる。
どうやらうまくおチビさん達を撒いた様だ。

無造作に二人して来た道を戻っていく。
唯一行きと異なるのは、腕の中の小さな温度。


「これで、いいんでしょう?」

「…ああ」

「それにしては浮かない顔ね。早々と後悔してるのかしら?」

「何言ってんのさ」

俺は一瞬だけ真横のラストと目を合わせ、再び遠くの景色に焦点を合わせた。
どう見えたのか知らないが、自分が想定していた中では最良の結果だった。
後悔する理由がない。


「お父様には貴方から説明して頂戴」

「いちいちうるさいなぁ。分かってるよ」

苛々して、少し強く、地面を蹴る。


お父様に報告しなきゃいけない。

「殺しませんでした、代わりに手駒が一つ増えました」って。


別に大した事じゃない。



ほんの少し、憂鬱なだけだ。





月のない空にはまだ日の昇る気配は無く。
抱えた身体が寒そうに震えていたから、風が当たらないように未登録の頭を抱き込んだ。


俺にはその冷たさが分からなかったけれど。



それでも密やかに、

冬が近づいた予感を、闇夜に凍てついた霜が預かっていた。










黙って訪れる
次の季節を見つめ




狡く汚く
誰にとも無く





願い続けていた。





どんな傷も





見ない振りをして。







to be continued...


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