9:帰る場所-前編-
泣けるものならいっそ泣いてしまいたかった。 人間らしく取り乱して泣き喚いて、彼の大嫌いな醜さの内に死んでしまいたかった。
だけどその時、
とくりとくりと聴こえた音に、意識を奪われた。
干上がった喉が痛い。
「………殺したいほど憎いのに…こんな事するの…」
やっとの事でそう呟いた。 上下の歯が小さく震え合っている。
すると彼は一瞬目を細めて。
そして困った様に笑った。
「…違うよ」
まだ、
夢の続きを見ているのかもしれなかった。
それは嘘みたいに、 優しい笑顔だったから。
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