9:帰る場所-前編-





「……」

闇の中、未登録は目を覚ました。
随分と汗を掻いていた。
その代わり頭痛が和らぎ、夕方より熱が少し下がった様に感じた。
そう。夕方、10分だけエドとアルが見舞いに来た時から。


「………」

其処まで思い出すと、ぼんやりと考えた。


何処から何処までが夢だったのだろう。


すっかり目が冴えてしまっていたが、夜は深く更けていた。
傷をかばいながらそろそろとベッドから降りて。
未登録は素足で窓辺に寄り、窓を開けた。
冷たい秋の夜風が流れ込み、ふるりと身震いをする。

きっと息は白い。でも暗すぎて見えなかった。
エドとアルはこんな寒い中、まだ見張りを続けているのだろうか。


「……」

そんな事しなくていい、とエドに言う事は出来なかった。
だけどエドは気づいている筈だ。

あれは自分の本心だった。





この次が無くてもと。








見渡した空にはやっぱり月がなくて。

でも新月なのか、既に沈んで見えなくなったのかはどちらともつかない。
確かなのは、今夜は祈るべき月がないという事。


近頃は毎夜、欠ける月を眺めながら祈っていた。



早く来て、と。











「、」

振り返るとドアが開いていた。


そして脚が見え、指が見え、光る刃が見えた。




声が出なかった。
でもその驚きは長くは続かなかった。

時が来ただけ。



今夜は新月だから。




闇に紛れ、細かな黒髪が向かい風に靡く。
本当は、いつまでだってそれを見ていたかった。

音も無く歩いてくる影は何処までも寡黙で。


口を開けば声が聴けるかもしれないけど、その為の言葉が何も見つからなかった。

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