8:手負いの鳥







帰らなくちゃ。
そう思ったけど。









「おやすみなさい。閉めますね」


ベッドに付けられたカーテンが優しく閉じられる。


微笑む女の人の後ろで、真っ暗な夜空が細くなっていく。






塗り変えられていく空が恨めしかった。





「……」

電気が消されて、部屋も真っ暗になる。
思い出してしまう。


「う…っ」

つい寝返りを打とうとして、傷口が引き攣る。
簡単に息が乱れる。
嫌な汗を掻いて、少し歯を噛み締める。
まだ暫くは此処にいなきゃいけないらしい。



帰りたいのに。





闇に目が慣れてきて、窓からの僅かな月の光を感じ始める。
カーテンがうっすら青みを帯びてきて、少しずつ小さな視界が開かれていく。
ざらざらとした包帯の表面を撫でながら、思い出してしまう。




「帰りたい…」

未登録はそう呟いた。
紡いだ言葉が身体の中で響く。




帰りたい。
帰りたい。
帰りたい。




でも何処へ。

帰る場所なんて何処にあるの。








『お前にはもう、
戻る場所なんてないんだよ』













「……深く、刺したのね」

未登録は泣いている様な、笑っている様な表情を浮かべた。



どうしたらいいんだろう。



哀しいのに涙も出ない。







きっともう会えない。


もう呼べない。
呼んで貰えない。





死んで欲しいから、だから。

だから今此処にいる。







「…エン…っ…」

哀しいのに、心が涸れてしまったみたいに涙が出ない。




別に好きになって欲しい訳じゃなかった。
気に入られたい訳でもなかったと思う。


其処まで望んでなかった。





なのに願ってた。











帰りたい。



そうないたけど





まだ涙すら追いつかない。





ねぇ、

この世に、






これ以上の
拒絶なんてあるの?


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