8:手負いの鳥







「彼女を攫った者達の犯行だと?」

「証拠はねぇけど…多分」

「幸い彼女はまだ生きている。本人の口から明らかになる事だろう」

「……」


「何故今まで報告しなかった」と、大佐が俺を責める事はなかった。
未登録の回復を待って話を聞きたいとかなんとか言っていた。
あと、セントラルに異動が決まったらしい。
正直どの言葉もすり抜けて頭に残らなかった。

未だ俺は取り乱していた。

…今までこんな風に大佐に連絡を取った事なんかあったか?

「…なさけねぇ」

受話器を置きながら少しうな垂れた。


そして通り慣れた白い廊下を戻る。
ほんの少し前まで俺は此処を車椅子で往復していた。






未登録の部屋に近づいていくと、治まりかけた動悸が再発してくる様だった。





なんでこんな事になった。

なんであいつがあんな目に。
ウロボロスと関わったから?
どうして守れなかった?
あいつが危険な位置に居るって知っていたのに。

もっと早く軍に保護を頼めば良かったのか?
でも未登録はそれを望んだだろうか?

ぐるぐると答えの出ない問いが巡る。
起きてしまった事を悔やんでも現状は変わらない。


これからどうする?





「エドワード君」

「え、あ。」

顔を上げると、前から未登録の担当医が歩いてきた。


「彼女が目を覚ましたよ」

「!それで、未登録は!?」

「心配ない。…だが今は混乱しているようでね。落ち着くまではそっとしておいてあげなさい」

命に別状はなく意識が戻った。

俺はほっと息を吐き出した。


「…様子を見るだけならいいかな」

俺の問いに医師は頷いた。






今日は天気がいい。
白い室内は昨日よりも一昨日よりも眩しかった。


未登録はベッドに背を預けて窓の方を向いていた。
空を見ているみたいだった。

白壁、ベッド、入院着。
青すぎる空に侵食を許さない輪郭。
それでもその背中は小さかった。

今にも透けて消えてしまいそうだ。





顔が見たい。
声が聴きたい。




一緒に居たくてその手を引いた筈なのに、また更に遠くに行ってしまった気がする。






今にも透けて、




この窓から飛び立ってしまいそうな。

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