8:手負いの鳥








「………」

仰向けのまま視線を泳がせた。
身体は重くて起こせなかった。

幾らかぼやけた視界の中で、記憶を手繰り寄せる。

よく思い出せない。

自分が何をしていたか。



真っ白なシーツが少し眩しい。

どうしてこんな所に寝ているのだろう。





「良かったわ!目が覚めたのね」

不意に出入り口から声が聴こえた。

首を軽く回して振り向くと、看護婦が安堵した様に微笑んでいた。


「……あの…」

「心配は要らないわ。今先生を呼んでくるから」

にっこりと微笑み、そして部屋を出て行く。
未登録はようやく自分が病院にいる事に気づき、動かない身体に目をやった。

鎖骨の下辺りから真っ白な包帯が巻かれていた。
ぼんやりとそれを眺め、そっと撫でる。

包帯の中は、よく分からないが変な感じがする。
苦しくて動けないのはこのせいらしい。
いつ怪我をしたのだろう。記憶が繋がらない。




何をしてたんだっけ。
今日は何日で、今何時?



「………」

部屋の内装には見覚えがあった。
特徴らしい特徴がある訳ではないが、初めて来た気がしない。

どちらかというと黄色掛かった白い無地の壁、天井、灯り、大きめの窓。
その窓の外には、青いインクを落とした様な澄み渡った空が広がっていた。









晴れてる。








未登録ははっとした。




「うッ…!」

身体を起こそうとしたけど、やっぱり力が入らなくて。
彼女が腕に貼り付けられていた細いチューブを剥がし、ベッドの上でもがいていると医師らしき人が慌てて飛んでくる。


「…帰らなきゃ…っ!私…!」

「落ち着いて。大丈夫だ」

大丈夫、焦る事はないと、医師は繰り返した。

もう少し遅かったら危なかったんだよと穏やかな口調で言われた時、
未登録は息を吐き出しながら、ぎゅっと真っ白なシーツを握り締めた。

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