7:雨 地上の哀しみを歌う空は、 泣きやむ事を知らずに。 状況を説明しろとうるさいラストを置いて、俺は部屋を出た。 行く筋ものパイプが壁と天井を走る、獣の呻き声がこだまする陰気な通路。 いつもなら心地よく感じる闇が気だるい。 此処には窓も隙間もないから空模様など分からない。 音も聞こえない。 好ましい筈の環境が、今は耐えられなかった。 なんでか思い出すのは昔の事ばかりで。 駆け巡る走馬灯は見慣れ過ぎた一人の人間でいっぱいだった。 やたら気の強いそのガキは幼くて。 一歩も退かない癖に、時々頼りなく縋る様にその目を和ませて。 いつだったか、嬉しそうな顔をして。 その記憶ばかり鮮やかで。 誰が死んだって構わなかった。 誰が居なくなろうがこの世界は回り続ける。 気に食わない奴には消えて貰う。 大勢居る中の、沢山の中の一つだと疑わなかった。 苦しみ喚いていればよくて、それが自分の愉しみで。 今なら分かる。 俺の望みはそんなところには無かったんだと。 地上に出ると、暗い灰色の空すら眩しかった。 恍惚とさせる一連の思考は雨に断ち切られ、雨に冷やされる。 やっぱり酷い雑音だった。 願いに気づいても、 生きていたとしてももう会えない。 目を閉じる度、 血の滲んだ羽根が散る。 開け放した檻は、 錆びた鉄屑。 [page select] [目次] site top▲ ×
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