2:浅い眠り

だったらどうして…。

見るとドアの取っ手部分がぽっかりと無惨な空洞になり、廊下の壁が覗いていた。
明らかに何者かによって開けられた人為的なそれ。

そう、何者かによって。


「……。」

「内側から掛ける鍵なんて邪魔でしょ?」

未登録は自分の今後について更に絶望を募らせた。
与えられた部屋は彼女にとって唯一誰にも干渉されない大切な空間、最後の砦だったのだ。
しかしこれからは彼が24時間いつでも入ってきてしまう。
ということは最早、安息もプライバシーもありはしない。

「不服なら外から何重でも掛けてやるよ」

ベッドに乗ったまま、クスクスと笑う。


もう頭がどうにかなりそうだ。


「と、それより今日から見張りしてもらうから宜しく♪」

「えっ…」

見張りって…。


前回連れて行かれた時のことが思い出される。

これ以上、人の死を見るのは耐えられなかった。



ただでさえ、眠れないのに。



「…警戒しなくても今度のはちゃんとした仕事だよ」

見透かすように言い、エンヴィーは未登録を街に連れ出した。









街は沢山の人で賑わい、どの通りも人で溢れていた。
それなのにこの街には彼女の見知った人は誰もいない。
そう思うと未登録はやり切れなさを感じるばかりだった。

「う〜んこの辺にいる筈だけど。…ん?ああ、いたいた。目印があって助かるよ」

彼はすぐ下の大通りを眺めた。

「あそこに、でかい鎧と赤いコートのチビがいるだろ?」

彼の言う二人を探していると、宿屋の前に大きな鎧姿の人物が立っているのが目に入った。



…?
あの鎧…。







そしてその横の少年を見た時。




未登録の心臓が強く高鳴った―――。




「あんたと同い年くらいだしぴったりでしょ?」

「…この人達を見てればいいの?」

未登録は、彼に悟られないように答える。

「そ、見つかんないようにね。俺これから仕事だから後で報告してよ。ああ、逃げようとか思わないでよね。
こっちに来た時点であんた余計なこと色々知ってんだから」

もし逃げたらその時は殺してあげる。
そう言い残し彼は姿を消した。
未登録は収まらない興奮と喜びの中、眼下の少年を見つめた。
こんな気持ちは久しぶりだ。


少し大人びて、金色の髪は結う程に伸びている。

でも間違いない。…あれは…。




「エド…」


呟いた少年の名は、未登録の胸の奥に懐かしく響いた。

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