新戦組! | ナノ


運命の時渡り

「疲れた! 疲れた疲れた!!」
「うるせえ、少しは黙れ」
「疲れたものは疲れたんだからしょうがないじゃないですか」

……だいたい何で私が……。

「頬膨らましたって無駄だ。あの様子じゃ、またお前を呼ぶんじゃねえのか?」
「嫌だ、嫌! あの人はあんまり好かない!」
「ったって、お偉いさんにいいえとは言えねえだろうが」

ガクリと頭を垂れ、先ほどまで面会をしていた【お偉いさん】の顔を思い出せば、ゾクリと身体が震えた。

「まあ、お前のおかげで話は上手く行きそうだ」
「それは良かったですね」

あの感じ悪い目つき、ねちねちと粘っこい喋り方……あんなのが相手でも、いつも通りの対応を見せた土方さんはさすがなものだと思う。

「せっかく新選組で一番美麗なのを連れてこいって言われたんだ、少しは喜べ」
「それだったら土方さん単体で良かったじゃないですか!」

数日前、そのお偉いさんから届いた手紙にはどうやらそう書いてあったらしい。その後幹部全員に招集がかけられ、残念なことに選ばれたのは私だったというわけだ。

「ああ! もう……」

地面が割れそうなくらいに大げさに足をふみだすが、そこは草鞋。少しでも大きな音がすればすっきりするんだろうけど、いつも通りの音しかしない。

「次に私が行かなかったらどうなりますか?」
「そうだな……交渉決裂、金が足りなくなって、お前ら全員減給ってところだ」
「うえ〜」

……それは、困る。
別に、たいしてお金を使う用事なんてないけれど、それでもないよりあったほうがよいのは確かだ。

「文句ばっかり言ってないでさっさと歩け。四条の橋を渡ったらすぐ屯所だ」
「はーい」

そうして、片足を四条大橋に掛けたときだった。感覚的に、あの何かがいるような奇妙な気配を察知した私は、ピタリと足を止めた。

「土方さん、やっぱりここは避けませんか?」
「何でだ、ここまで来て遠回りする理由でもあんのか」
「ほら、急がば回れって言いますし」

土方さんの目を見ながらも、チラリチラリと橋を見渡すと、遠くの方に夕日に照らされる金色が見える。

「俺は帰ってからも仕事があるんだ。遠回りなんてしていられるか」
「えっ、あっ、だめです!!」

止めなければ、という必死の思いのあまり、声が張る。先ほどまで遠くを見つめていた赤色の瞳はこちらに振り返り、獲物を見つけたかのように唇に弧を描いていた。

「そういうこと……か」

近づいてくる彼に、土方さんも何か楽しげに口角を上げる。

「あいつがいるんならいるで、最初からそう言やあいいだろうが」

やがて相対した両者は、あんなに人が通っていたはずの橋から、人を遠ざけるほどの威圧めいた空気を醸し出す。
両者の視線が交わると、キラリと白刃が弧を描く。

私は心の中で小さく舌打ちすると、鞘ごと腰から刀を抜き、両者の刀の間に滑らせるようにして突きを入れた。

そして三本の刀が交わったとき、ぐらりと視界が歪み、私の身体にまるで橋が崩れてしまったのかと思うほど、真っ逆さまに急降下する感覚が襲った。


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「……おい、起きろ」
「ん……」

鈍く痛む身体を起こすと、見事に目を合わせようとしない二人が映った。

「お前に免じてこいつにはなにもしてない」
「ありがとう、千景くん」

ムスッとしたままの二人に安堵を覚えたのも束の間、鼻に付く鉄の臭いに、身体中に神経を巡らした。

「血の臭い。ここってどこなんですか?」
「さあな、俺らもふっと目を開けたらこのざまだ」
「風間、心当たりは?」
「知らん。元はと言えば……」
「ああ、ああ……もういいから」

一つ息を吐き、腰の刀に手を当て、二人を交互に見やる。

「行くぞ」
「土方、貴様に指図されるいわれは……」
「いいから行く!」
「おい、離せ」
「嫌だ」

力任せに風間の手を引き、私たちは血の臭いを追って歩き出した。
そして、たどり着いた先に見えたのは、驚くほど大きな軍勢同士が争う姿だった。

「戦……? ってか、ここど真ん中だよね」
「ああ、最前線みてえだな」

押し合う人々と交わる旗。
万をの兵力が押し合い、へし合う。

「それにしても、古臭い戦い方」

後方から放たれる弓にはどうもそう思わずにはいられなかった。

「土方さん、どうしますか? このままだと何も状況がつかめないですよ」
「そうだ、このままここでいつまでもじっとしてるなんてごめんだ」
「状況を把握する必要はあるな。……よし、千花、お前が行ってこい」
「ええっ!?」

何で私だけになっちゃうのかな……

「お前が一番ちょこまか動いてすばしっこいだろ。こういうのはもってこいだ」
「その代わり二人でお留守番ですよ? 仲良くしててくださいね」

互いに背を向けている二人を見れば、不安が隠せない。

まさかこの後、信じ難い事実に直面するなんて、この時は想像すらしていなかった。というより、そんな嘘みたいな話、頭の片隅にすらありはしなかったんだ。

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