01 | ナノ
弓を引く。いつも一緒にいる"パートナー"がいつも通り、鳴いた。

柔らかいニスの香り。滑らかな体。ウォーミングアップを済ませると、このところずっと練習している楽譜を開いた。楽譜自体は小曲がたくさん入ってあってそれなりの厚さがあるが、いつも開くところにはもう折り癖がついてあってそれが練習量の多さを物語る。


白峰音楽高校に入学して、2回目の春。

国語や数学といった普通の教科の勉強と共に、ゴールのない課題の山。5教科の試験なんかは最低限に終わらせて、それ以外は自分の楽器試験の練習、練習、練習。

合間には個人ごとのレッスンも入る。

白峰音楽大学付属のこの高校には、もちろんそれぞれの専攻にそれぞれの楽器のプロを雇っていて。加えて、大学の方の教師にも望み、かつ日時などの条件が合えば教えてもらうことができる。将来音楽関係の仕事を目標とするのなら、とても恵まれた環境であると言えるだろう。


とはいえ、そんな中でもプロの演奏家やオケの一員になれるのはほんの一握り。

音大は潰しが効かない、というのは高校生にもなればわかる。

ただ昔からヴァイオリンを続けていて、中学を卒業するというときにこれから何をしたいのかと問われると自分にできることはこれしかなかったから、音楽高校に進んではみたけれど。

ひたすらレッスン、課題、試験に追われる日々。なんとなくでここまで来て、これからなんとなくどこへ向かうのだろうか。


速いパッセージ。指がもつれ、ヴァイオリンが悲しそうに鳴いた。




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