00 | ナノ
出会ってなかった頃、どんな気持ちで音を奏でていたかなんてもう思い出せないけれど。
この出会いは必然だった、なんて言うと神様に笑われるかもしれないけれど。
それでも確かに今の僕を作っているのは君で、君を作っている色々なものの中に、きっと僕の要素も少しは紛れていて。
最期に床で思い出すのは、あの冬のヴァイオリン協奏曲なのだろう。
君がそのとき隣にいようと、いなかろうと。
足を踏み出す。湧き上がる歓声。目が眩みそうなライト。
誰よりも観客に近いその場所で。
誰よりも会場にその音を。
客席の真ん中、1番後ろ。その特等席にまで響かせるように。
指揮棒が振り上げられた。
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