「よし、今日はこの村で休息を取る事にしよう」
「では、宿の手配を」
「ああ、任せたソディア」



さほど広くない広場に人はまばら。まずは村長に挨拶をしなければ…まず村人に村長の家を尋ねようとした時、不意に後ろから随分懐かしい声が僕を呼んだ。



「もしかして…フレン?!」
「その声は…もしかしてナマエかい?」
「す、すごい…!本当に会えた…!フレン騎士になったの?」
「そうなんだ、実は…」



声を掛けてきたのは、幼い時に住んでいた市民街でよく遊んでいたナマエだった。再びこうして巡り会えるとはなんという偶然か。



「…と、済まない。村長の家を訪ねたいんだけれど…」
「ごめんなさい!私ったらすっかり話し込んでしまって…村長の家はこっちよ!」



彼女について行くと、そこには一軒のこじんまりとした家屋の前に辿り着いた。どうやらここが村長の家みたいだ。



「案内ありがとう」
「フレン、すぐに行っちゃうの?」
「いや、ここまで長旅だったからね。少しだけ休んでいくつもりだよ。それでも、明日の朝には出発してしまうけれど」
「だったら、今晩私の家でご飯でも!…と、ごめんなさい。もう、昔みたいに馴れ馴れしくしてはいけなかったわね…」



彼女の悲しげな瞳に、少しだけ心が傷んだ。僕らの関係は変わって欲しくないものまで、変えてしまったみたいだったから。



「夕食は…無理かもしれないけど、もし君が良ければ少しだけ時間貰えるかな」



隊長という身分である自分が一人勝手に出歩くなんて言語道断だ。…今までならそう戒めていたかもしれないが、今日だけは自分に甘く居たかった。僕の言葉を聞いて、途端に広がるこの笑顔を守るために。



「うん!じゃあ…」




.




「待たせてしまったかい?」
「ううん、私も今来たところなの」
「部下に説明するのに時間がかかってね」
「ふふ、隊長思いの素敵な部下なのね」



僕の身を案じてくれるソディアには申し訳ないが、久しぶりのナマエとの再会。今は二人だけの時間を過ごしたかった。誰にも邪魔されずに。待ち合わせに選んだ丘は村からの明かりもあまり届かず、その代わりに空の星たちが綺麗に見えるところだった。



「…ここの星空、僕たちが住んでいた市民街より綺麗に見えるね」
「あそこも綺麗だったけどね。その後、フレンどこへ行ってしまったの?」
「あそこより更に治安の悪い下町に飛ばされてしまったんだ」



父を亡くし、市民街から下町へ飛ばされたあとの話を淡々と僕はナマエに話した。いい思い出ばかりではなかったけど、僕が下町で過ごした日々はそれはかけがえの無いものだった。



「…フレンが元気そうで良かったよ」
「ナマエもね。まさかこんな所で会えるだなんて思いもしなかったよ」
「それは、ね…」



徐に立ち上がったナマエに目をやると、彼女の奥に広がる星空がより一層彼女を輝かせているように見えた。その顔は暗闇で良く分からない。そして、一枚の紙切れを僕に渡してきた。そこに書かれていたのは



「…僕の…名前?」
「…この村の古い言い伝えでね、"新品の万年筆で紙に探し物の名前を書き、ポケットに入れて探せばすぐに見つかる"っていう言い伝えがあるの」
「僕が…ナマエの、探しもの?」
「ものって言い方はあまり良くないけど、でも!その紙を書いたら…本当にフレンが来てくれたの…っ!」



暗闇で表情がよく分からなくて、良かったのは僕の方かも知れない。自分で自分の顔は見えないけど、見えなくても分かる。これは、絶対火照っている。ナマエに知られなくて良かった、こんな情けない姿…



「どうしたの?フレン。顔赤いけど…」
「あ、いや!これは、その…」



……全然隠せていなかった。ナマエが僕を心配してこちらに近付いてくる。しまった…まだ顔の火照りは引いてくれない。咄嗟にナマエから視線を外してしまった。



「ぅわっ!」



そのせいで、彼女が足を躓いてこちらに倒れ込んでくる事に気付くのが遅れ、咄嗟に抱き抱えてしまった。ほのかに香る甘い香りに、抱き抱えた時の柔らかな彼女の身体に理性を崩されるのは、いとも簡単な事だった。



「ご、ごめん!今、離れ──」
「このままでいてもいいかな」
「……っ」



驚いた彼女の声は返ってきたものの、抱き締めた手を引き剥がされることは無かった。それどころか、僕の背中に手が回される。今度は僕の方が驚いて体をナマエから離そうとすると、ナマエの手によって阻止された。

どちらのものか分からない心臓の音が早く鳴り響く。……これだけ密着していて速い鼓動の音しか聞こえないということは…どちらも速いということか。



「フレン…心臓の音速いね」
「ナマエもね、緊張してる?」
「…好きな人に、こんな風に抱き締められて緊張しない人がいるの?」
「はは、僕も同じだよ」
「フレン…私の事…好き、なの?」
「ここまで言わせておいて、気付かないかなぁ」



チラリとナマエの顔に視線を向けると、相変わらず顔色は伺えなかったが髪の毛から覗いた耳が端まで真っ赤に染っているのが見えた。

……今日は、これくらいにしておくか。



「好きだよ、ナマエ」
「〜〜っ!!わ、私も…!」



僕の名前を呪文にして

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